第4話外出中も油断できない。
今日の買い物お願いできる?」
妻のユザから頼まれてしまった以上、断る理由などどこにも無い。いやあってはならない。
俺はメモを受け取り、外出用のちょいと洒落た服に着換えて家を出た。
スーパーまではそう遠くはなく、徒歩で10分ぐらいの距離にある。その周辺には飯屋や、居酒屋などといった店も多く、夜はサラリーマンや年配の男がたくさんいる。
向かう途中、野良猫がこちらへ歩いてきて腹を見せてきたので、その可愛さに見惚れてたくさんモフってきたのは内緒。
飼いたいのだが妻がぜったいに許してくれず、こうして野良猫や人の家の飼い猫ぐらいしか触る機会がないのだ。
まだ妻と付き合っていた頃、デート中にカフェに行く事になったのだが、普通のカフェが定休日で猫カフェに行く事になった。妻は全然いいよと言った。
店内に入ってから1時間ほど俺はずっと猫を撫でたり遊んだりして、馬鹿な話だが妻とほとんど会話しなかった。
それくらい俺は夢中で可愛がっていた。
すると、妻は我慢の限界に達し俺が必死に謝るも聞く耳持たず、帰ってしまった。
それ以来、俺は猫の話をすると妻はすぐに機嫌を損ねる。
そうなってしまえば、飼えないのも当然である。
メモに記載されている食材を籠に入れていき、ポケットに入れておいたペンでチェックしていく。
「こっちのほうが安いしデカイな…」
好物のキャベツを手に取り、1つ1つに評価をしていく。前も言ったが、俺はキャベツが好物だ。たくさんのキャベツを食してきた俺は、見ただけで品質もわかる。
キャベツだけだけど…。
「うし…!」
メモに書いてある食材と、エナジードリンク2リットル3本をかごに詰めて、レジへと向かった。
「お会計3078ダズになりまーす!」
店員は慣れた手付きですばやくレジ打ちをし、営業スマイルで俺に言った。
「…」
無言で4000ダズを払い、お釣りを財布の中へ入れた。エコバッグは既に渡しているので、店員はスキャンした商品は全て入れてくれた。
エコバックの取っ手を指にかけて、出口へと向かう。今日の夕飯は何だろうと考えながら。
スーパーを出て5分くらいが経過しただろうか。妙に視線を感じる。少し嫌な感じがするので一度、辺りを見回した。
「気のせいか―――」
見回して見ても特に変な物も何もなかった。きっと疲れているのだろう。
俺は一度軽く深呼吸をし、再び帰路を歩こうとした。
「気のせいではない。流石だ!」
俺は咄嗟に声が聞こえた後ろの方に顔を向けるとそこには、いつもいつも俺の家に来るしつこいクソ野郎だった。
服装も全身黒服にマントと、怪し過ぎる格好で正直痛い。
「っはぁーー…。またお前か…」
「俺がここへ来た目的はもうわかってるはず…。 さぁ、軍へ戻るぞ!」
「しつけぇーんだよ!戻らねぇってんだろうが!」
俺は、駆け足でその場から離れようとした。
「今日は逃がさん!」
向こうは手ぶらで俺は大量の食材が入ったエコバックをてにしている。その圧倒的不利な状況だが、そんな事言ってもどうにもならない。
あいつから上手く撒けなくては、捕まってしまう…。
「はぁっはぁっ…」
エコバッグが邪魔で走りづらい。このままでは追いつかれてしまう。
何か手は無いのか…。そう考えながら、T字路を曲がると3人の警官が道をパトロールしていた。
俺はその警官に必死に訴えた。
「全身黒い男の人にずっと追いかけられるんです!捕まえてやるとか変な事言いながら。」
「わかりました。実はその格好をした不審な男がいると通報が入ってここにいるのです。」
と警官が言った瞬間、全身黒服の男が
「ここかぁ!!」
と叫びながら、やってきた。
「じゃっ!よろしくお願いしゃーす」
俺は警官を縦にして、逃げた。
警官は多少の戸惑いがあったが、すぐに「了解」と言って応じてくれた。
この国は法律上、どんなに強くても警官に手を出したら有罪だ。警官が原因なら罪は問われないが。
この場合、あの黒服男を不審に思った人が通報したということは、警官に手を出すことは有罪である。
あいつもちゃんと罪をわきまえる奴だから、手は出さないだろう。
「はぁ、はぁ…。着いたぁ」
家の玄関の前に立つと、思わず安堵の息が漏れた。
走ったせいで人参とか硬いやつ以外、少し傷やシワができていた。
でもそれくらいだけで、生卵とかは何とか無事だった。
妻に事情をすべて話すと、それは仕方ないと野菜に傷が入っていることを了承してくれた。
それに、
「私が作れば傷もシワも関係無く、美味しくしてあげる」
と得意げな顔で言っていた。
「いつもありがとう…」
と俺は妻の肩に手を乗せ、感謝の言葉を言った。妻は「こちらこそ」とにっこり微笑んで返した。
それにしても外出中も狙うとか、頭おかしいんじゃないの?
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