第3話

 軍を辞めて1週間程の事だった。


 あいつがまた家にやってきた。今回は昼ではなく、朝に来た。


 俺はいつもどおりソファーでごろごろしていると、

 ドンドンドン!と扉を叩く音が聞こえた。

 俺はこの時点で既に察したので、出ようとした妻を引き止め、自分が出た。

 

 「今度は何だ…?」


 「お前の力が必要なんだ…。頼む!」

 

 まだ懲りていないようだった。

 先日は迷惑をおかけしてすみませんでしたと謝りに来たのであれば、許していたのだが、どうやらそうでは無かったみたいだ。


 「だーかぁーらぁー!嫌だってんだよ!だいたい、俺がいたところで大して変わらんだろぉが!」


 「そんな訳あるかぁ!お前が急にやめたから遊撃隊の士気はダダ下がり…。犠牲者もたくさん出た!」


 「っ……チッ!」


 俺は帰れと怒鳴り、家から追い出した。

 帰って行ったのを確認し溜息を吐いた。

 

 ソファーに戻ろうと思った俺は、何故か扉に鍵を掛けてから、サンダルを脱いだ。


 「あなた…どうしたの?」


 妻が心配そうな目でそう問いかけた。


 「なんでもないよ。気にしなーい気にしなーい」


 妻の両肩に手を乗せ、電車ごっこのようにして玄関から離れた。


 ったく…、しつこいな…。 


 ただ、死んだ奴らには申し訳ない。俺のワガママでそういう羽目にしてしまった。


 その日は、妻と一緒に買い物にでかけ、いつも通りの新婚生活をした。

 俺の妻は神なんじゃないかと思うくらい、俺は彼女に惚れている。


 寝る時までずっと側にいた。今まで一緒にいれなかった分、妻に寂しい思いをさせた。もうそんな事は思わせないように…。


 既にスヤスヤと寝息をたてている妻の頭を軽く2度撫でて、隣で手を握りながら眠りについた。


 

 やけに重い。寝起きでここまで体が重い事は、これまで一度も無かった。

 眠い目を無理やり覚醒させ、脳をむりやり働かせ、ようやく原因がわかった。

 俺の体の上に覆いかぶさるようにして、妻が寝ていた。


 自分の胸の上に何やら柔らかい物があるが、そんなことより息が苦しい。


 「ユザ…、起きろ…!」


 苦しい中、精一杯の声でそう言った。


 ユザは俺の1言で目は覚めたみたいだった。

 彼女は、まだ開ききっていない眠そうな目を3度擦ると、この状況を理解したらしく、俺の上からゴロンと横に転がった。


 「お前こんな寝相悪かったっけ?」


 「誰かさんのせいです〜」


 プイと顔を背けて、そのまま顔を隠すようにして反対側を向いてしまった。


 妻が俺のせいというのはだいたい理解できた。

 簡単に言えば俺がいなかった事で、ダブルベットなのに1人しかいない。そのためか、二人分のスペースを常にゴロゴロ動き回っていたのだろう。


 本当に申し訳無いですね。


 

 その後すぐに体をおこして軽く伸びをすると、ベットから降りて洗顔をしに向かった。


 今は7時前だ。いつもより遅く起きたが、どうせ家にいるからなんの問題もない。


 それから30分後に朝飯を食べた。

 卵かけご飯と、目玉焼きなど卵中心のメニューだった。


 それにしても妻が作るっていうだけでめちゃくちゃ美味しい。

 比喩抜きで。


 「今日も美味しいよ」


 好物のキャベツサラダを頬張りながら言うと、

 「知ってたー」

 

 と妻が卵を割りながら微笑んだ。


 「あ、そうそう…。私今日昔の友達と出かけるから昼ご飯どうする?」


 「うーん…。気分転換に外食でも行こうかな…。いいよね?」


 「うん。あなた最近外に行ってる時間がほとんど無いし、たまには外の空気吸ったほうがいいかもね…」


 「そうだな。買い物くらいしか行かないからなー。じゃっ、楽しんでこいよ!」


 妻は「ええ」と可愛い笑顔で言った。


 それから2時間ほどして、妻はでかけた。

 俺はというと、いつものソファーでゴロゴロしていた。


 今日は快晴であり、ゴロゴロするにはうってつけな天気である。


 新聞を読んでいると、戦況についてびっしりと詳しく書かれていた。

 

 戦地はここから凄く遠い場所にあるので、本土は戦争中にも関わらず、賑わっている。


 昨日、ナマー平原という大規模な平原で戦いが起きたらしい。

 未だに戦火は増す一方との事だった。


 こちらは対歩兵戦車5台と犠牲者1290人の損害が出たそうだ。敵軍は爆撃機3機、対歩兵戦車12台、犠牲者およそ2609人だそうだ。


 俺もナマー平原で何度か戦ったが、あそこはいつ死ぬかわからない、地獄の墓場だ。


 実は俺の腹に縫われてる傷跡があるが、これはナマー平原で戦った際、戦車の砲弾の破片が刺さったときのものである。


 一通り新聞を読み終え、軽く伸びをして、ソファーに横たわった。


 一眠りするか…。


 と思い、目をつぶった。


 それからすぐに、俺の意識は夢の中へと飛んでいった。

 

 


 

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