戯曲・博物学

安良巻祐介

 

 裾の長い縞衣に、真っ白い骨の面を被った男が、古いムービーじみた色調の街路へ一人出て、延々とパントマイムをやっていた。

 踊るような、苦しむような、そのパントマイムを目撃したものは、その晩、皆一様に同じ夢を見た。

 貌のある月の下、あおぐろい光に照らされる丸盆の舞台で、そこかしこに立った人の姿が、少しずつ奇怪な彫刻じみて変形していく。

 それは、人面獣であったり、犀であったり、侏儒であったり、トルソであったり、天使であったり、様々だったが、どれも陰鬱な青銅色をしている点で共通していた。そして、やがてその中心にせり上がってきた仕掛けから、あの骸骨面の男が降り立って、深々とお辞儀をする。

 そうして、目が醒める。

 夢を見た者は、自分でも知らぬ異国の歌を昼と言わず夜と言わず口ずさむようになり、やがて、身の周りの家具や調度やの物品全てが、元は人間であったのだという妄想に取りつかれ、どんなものをもひどく恐れ始める。

 そして彼或いは彼女は、最後には、自分の方が本当は元々古い骨董の品であったのだという「事実」に気付く。彼或いは彼女は家のどこかの場所へ行って、片隅に立ち尽くしたまま動かなくなる。そう、永遠に。それからはもう、どんなに親しい友や家族が話しかけても、人としての言葉を返すことはない。

 いつかの街路のパントマイム演者のゆくえを、当局は全霊を上げて探しているが、未だ捕捉できないままである。

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戯曲・博物学 安良巻祐介 @aramaki88

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