第18話

 「シルフィッ……!?」

 

 身体を押された瞬間、周囲の動きが遅く見えた。

その視界の中で、彼女が目の前で凍っていく。何も出来ないまま……。


 「――行こうっ!」

 「……っ!離して!シルフィとお母様がっ!」

 「今はそんな事を言ってる場合じゃない!走らなきゃ助からないぞ!」


 さっきまで動きを止めていた彼だったが、私の腕を引っ張って走る。

迫り来る氷の魔法は、生半可な速さでは追い着かれてしまうだろう。

魔法を使えば、逃げ切れるかもしれないけれど……氷を全て砕いてしまう。

小規模の魔法だった場合、あの氷は強大で弾かれてしまうだろう。

そんな事を考えている時だった。彼が身を翻して、そのまま私を先へと引っ張った。


 「出来るかどうかなんて分からない。けれど、やらなきゃいけないのは今だろう!」


 そう言って彼は、地面を思い切り殴る。

その瞬間、解き放たれたように錆びた鎖が地面から出現したのだった――。


 ◆◆◆


 「絶対護れ……何て無茶を言ってくれる」


 出現させたのは赤く錆びた鎖の壁。

この森の作りがどうなってるのか分からないけれど、躊躇してる暇なんて無い。

躊躇していたら、僕らは全員氷漬けにされていただろう。


 『はぁ~、間一髪だったなぁ。少年』

 「……だれですか、貴方は」

 『フッ……警戒は怠らない、か』

 「これでも一応、警戒心だけは強い方なので。もし彼女が狙いなら容赦はしません。申し訳ないですけど」


 通用するかなんてのは、明白に分かる事だ。

目の前に居るその人は、動ける人。つまりは『出来る人』と言っても良い。

経験の少ない僕でも、その差を容易に計れるぐらいだ。

この鎖の技だって、今はなんとなくで使えてるだけ。いつまで保つか。


 『――まずはこの森を抜けるのが先決だ。お姫様、道案内を頼めますか?』

 「私は……っ」


 俯く彼女は、震えながら何かを言おうとしている。

だがその先は、僕でも単純に読める言葉だった。それはこの人も一緒らしい。


 『悪いけれど。さっきの氷から、貴方の同族を助けるのは不可能だ。今は一度退き、なんらかの策が出るまで力を蓄えるしかないでしょう』


 確かにそうだ。見ず知らずとはいえ、あの氷漬けになった森に入るのは危険だ。

それに入ったとしても、この氷を生み出した相手に勝てるかどうかも分からない。

ここはひとまず……。


 「(あれ?僕はどうして、こんな事を冷静に考えられてるんだ?この森の事も疑問が出て来ないし、それに今の状況についても……僕はいったい……)」

 

 そもそもこの人は敵か味方も分からない。このまま従って良いのだろうか?

道案内をして森を出た後、捕まったりなんて事は無いだろうか?

色々な可能性が出てきて、頭の回転が追い着かない。頭が痛くなってきた。


 「(それにさっきの力。僕にあんな力があるとは知らなかった。いやいやいや待て待て待て。あんな魔法みたいな力、僕が使える訳が無い。何かの間違いじゃ……)」


 確かめる為に鎖が出現した場所を見る。

そこにはバリケードのように壁となっている鎖が、押し寄せる氷を食い止めていた。

つまりは、夢や妄想という訳でもないというのが証明されてしまった。


 「……はぁ。とりあえずは目を瞑って深呼吸して落ち着くしか……」


 そう思い、目を瞑って落ち着こうとした僕。

目を開けた瞬間、僕は再び落ち着ける訳が無いと頭から悟ったのであった――。


 「やぁ……いらっしゃい。如月皐月くん、神の世界へ」

 「…………へ?」

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