第17話

 少し離れた場所から、魔力の気配が三つ。

初めて視た時、彼の魔力は空っぽだったのに……何があったのかは不明。

だけどいけ好かない神に言われた事は、一応従っておくとしよう。


 「――持ってけ魔力っ!イノセントガーディアンッッ!!」

 「シルフィ?」

 「遅くなった。オルフィア様は?」

 「あそこに」


 彼女が指を差す方へと向くと、そこには動きの止まった女王たちの姿があった。

それを見た瞬間、自分の中から怒りが込み上げてくる。


 「あいつがやったの?」

 「シルフィ、落ち着いて下さい。貴方でも相手になるかどうか」

 「フ……それがここを護る精霊か」


 彼女も私も、警戒を甘くしていた訳ではない。

それどころか、私は危険な魔力への察知能力はエルフィよりも高い。

それなのにも関わらず、何でこの人は……もう背後に。


 「こんな簡単な事なら、オレ一人でも十分だったな。人間の動きも止まっているし、エルフの女王があの空間を抜ける気配も無い。だがオレも忙しい身でね。ここは彼女に任せるとしよう。――イザベル、後は任せたぞ」

 『仰せのままに。我が王よ』


 彼の声に応えるように、入り口からゆっくりと歩いてくる人影。

それを見ながら彼は微笑み、黒い魔法陣で身を包んで消えていく。


 「あ、そうそう。イザベル、ここら辺一帯は凍らせておけ。残しておくと面倒だ」

 『畏まりました。すぐに取り掛かります』


 薄い水色の魔法陣が展開され、その場所から徐々に凍らされていく。

不味い。彼女の魔力は危険だと、私の中にあるそれが告げている。


 「――エルフィ、逃げてっ!彼と一緒にっ!」

 「え?シルフィ……?」


 私は彼女の事を魔法陣の範囲から出すように押し、思い切り深呼吸して言った。


 「おい人間っ!」

 「っ!?」

 「エルフィを護るんだぞ!絶対だ!私の代わりに、命懸けで護るんだっ!それが出来なきゃ、お前があいつに目を掛けられてる理由が分からないからな!絶対だからな!」


 その叫びを闇へと片足を入れていた皐月の事を戻し、その言葉は目覚めの良い程に殴られたような感覚だっただろう。

やがてその魔法陣の範囲は凍りつき、シルフィもエルフの女王たちは動きを止めた。


 ◆◆◆


 誰かが僕に叫んでいる。彼女を護れと。

出来るのだろうか、そんな事を僕が。いや、やらなければならない。

なんとなくだけど、目の前に居る僕を見た瞬間……そんな気がした。


 「走るよ!」

 「え!?ちょっと待って下さい!お母様がっ!」


 握った腕は細く、怯えたように震えて泣いている。

あの妖精の子も含め、彼女にとっては大事な人なのは明らかだ。

でもどのみち、ここは一旦引かなくちゃ全滅だっ!


 「ごめんっ!」

 「お……かあさま……シル…フィ……」

 

 気を失った彼女の身体は軽くなり、迫り来る氷から逃げる準備は整った。

後はただ、どうやってこの森は抜けるかどうかだ。


 『こっちだ』

 「え?」


 目の前に突然現れた黒いローブ。

それはまるで誘導するように、僕の前を走っていく。

着いて来いと言っている。だが着いて行って良いのだろうか。

だが僕には、他に選択肢があるとは思えなかった。


 「…………」


 僕は彼女を抱え直し、その黒いローブの背後を着いて行くのだった――。

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