第16話
死ぬのは嫌だ。そう思えたのは何年振りだろうか。
真っ暗な闇の中へと身体が沈み、僕は奥深くへと堕ちて行く。
落ちて、堕ちて、墜ちて……そこに在ったのは、鎖で縛られた誰かの姿。
いや、誰かと分からない程では無かった。僕は、その誰かに手を伸ばした。
だってその誰かは、目に光を映していない僕だったからだ。
その僕に触れた瞬間、僕の意識はその黒い鎖に包まれるのだった――。
「お母様っ!」
エルフィは彼を止めるべく、その部屋へと急いで入る。
だが入った瞬間にそれは悟る事が出来た。間に合わない。間に合う事が出来ないと。
だから彼女は、緑色の魔法陣を展開して入り口の大樹に触れた。
その瞬間、大樹の枝が無数に伸び、彼らの間へと介入する事に成功した。
「また邪魔が増えた。神様ってのは、余程オレの事が嫌いらしいな。変わった歓迎会を開かれたものだ」
「――――!」
「猪突猛進では、オレを倒す事は出来んよ。人間!」
蹴り飛ばされた皐月は、地を足を引き摺らせてブレーキを踏む。
錆びた鎖は皐月の周囲を囲み、バラバラになって彼の手元へと集まっていく。
それはやがて一本の剣となり、皐月はそれを掴んで移動する。
空間に張り巡らせた鎖を足場にして、立体機動のように彼へと近付く。
だが……。
「サツキさん、後ろです!」
「
エルフィの声と同時に、彼は皐月の移動よりも早く真上から蹴り落とす。
さらに追い討ちをしようとする彼に狙いを定め、エルフィは小さな竜巻を放つ。
「それも遅いぞ。エルフィア・オル・バーデリア」
「――っ!?」
彼はエルフィの技を真似して、その倍の威力で壁へと薙ぎ払った。
酷く頭を打ち、エルフィの視界は真っ赤に染まり霞んでいく。
◆◆◆
この様子を見る者は、頬杖をしながら
「やっぱり動いたね。この時代に、この時間。全てジャスト。他の世界線とも、何も変わっていない行動パターンだ。ここまでは、だけど」
それは監視と審判を任されている神。皐月をこの世界へと転移させた神。
リンは錆びた鎖を使っている彼の様子を見て、その映像を映す結晶へと手を伸ばす。
「……キミはまた、そういう力を持っているのか。因果の果て。ユグドラシルが張り巡らせた大樹の根は、どこまでも続いているけれど結果は同じ」
「リン」
「クロノス。ボクたちは、何度この世界を構築し直せば良いのだろうね」
そう言いながら、リンはクロノスを見て笑った。
ただその笑顔には、物寂しさを纏っているような……ぎこちない笑顔だった。
◆◆◆
映画を見ているような気分だ。これは自分の見ている視界の情報なのだろうか。
自分の目線から一歩引いたような視点は、自分と掛け離れた運動能力で動いていた。
自分の身体が、本当は自分の物ではないような感覚。不思議な感覚だった。
まるで自分の身体で、ゲームをしている気分だ。
『これはキミの力。繰り返された命の中で、必ずあった
「僕の力……?」
『今はそれで良いさ。今はボクに任せると良い。――これは、鎖を一つ解いてくれたお礼だ』
僕に似ている彼は、僕に手を翳しながらそう言った。
真っ白の光に包まれた僕は、ゆっくりと目を開ける。
そこはさっきまで僕が見ていた、彼と彼女が居る世界だった。
◆◆◆
鎖を足場にしていた途中で意識が戻り、皐月は体勢を崩して身体が真っ逆さま。
そこで皐月は悟った。このまま後ろへと流されれば、地面に落ちていくと。
「う、うわっっ、落ちる落ちる!」
「風よ、穿て!」
「だから遅ぇって言ってんだろ!」
「へ?」
落ちている途中で、双方の攻撃が皐月の両側から飛んでくる。
今度こそ死を悟った皐月だったが、それを阻止しようとする姿があった。
「――持ってけ魔力!召喚魔法っ、イノセントガーディアンッ!」
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