第14話
……砂嵐の音を立てながら、壊れたテレビのような世界が広がる。
そんな灰色の世界の中で、誰かが勢い良く包丁を逆手に振り下ろす。
何度も、何度も……。何度も刺す度に、黒い液体がその人物は浴びる。
『――――』
こちらを振り返り、ニヤリと笑うその表情は狂気に染まっている。
時折聞こえて来るノイズと共に、耳元で雑音と周囲の音を交互に拾い続けている。
その人物はこちらへ近寄り、凍てついた瞳で手を上げる。
「――――」
声を出そうとしたが、何かに邪魔されるように出す事は出来なかった。
その人物はそのまま、真っ直ぐ迷いも無くそれを振り下ろすのだった。
霞んでいく視界の端。そこに立っていた誰かは、涙を流しているのであった。
◆◆◆
嫌な予感がする。それがエルフィの直感だった。
黒い魔法陣は不吉な空気を放ち、その空気は濃ければ濃い程それにあてられた者は正気を失うという噂話を聞いた事がある。
何も無ければ良いのだが、あの場所にはエルフィの家族たちが暮らしている。
「シルフィ?魔法の……術者の気配はこっちで合っていますか?」
「合ってるはず。霧が濃くなってきたから、自信無いけど」
「では完全に見失う前に、ですね。移動速度を上げます。シルフィは後で着いて来て下さいっ!」
そう言うとエルフィは地を蹴り、大樹の枝から枝へと移動を速める。
その様子を見て、シルフィは動きを止めて空を眺める。
「……はぁ。黒い魔法陣かぁ……また動くのかな、あれが」
『シルフィード、余計な事はしちゃダメだよ?』
シルフィは振り返ると、姿は見えないけれど気配はする。
その状態に慣れているのか、シルフィは溜息を吐きながら口を開いた。
「――何でここに居るの?神様っていうのは、暇なのかな」
『酷い言われようだ。監視と審判が、ボクの主な仕事だよ。それ以上もそれ以下も無い。まぁ今ここに居る理由を話すなら、単なる暇潰しかな』
「……暇なんじゃん」
『それはそうと、面白い事になってるね。シルフィード』
「面白くない。それでエルフィに何かあったらどうするのさ!神として、責任取ってくれるのかな?」
『ボクは神様だけれど、悪魔じゃない。だけれど、そうだな。ボクが興味の無い人間に干渉する事は無いよ。キミも含めて、彼女も含めてね』
シルフィはその言葉を聞いて、彼の事を見据える。
その反応を予想していたのか、彼は口角を上げて言った。
『――さて、ボクはそろそろ来るべき時に備えるとしよう。シルフィード、一つだけ忠告だ。彼を無碍にしてはいけないよ?彼はこの世界に必要な人材だからね』
「彼?それってどういう……」
『それじゃ、よろしく頼むよ。シルフィード』
「あっ、もうっ!何で神様ってこうも精霊使いが荒いのかな!?いいよ、分かったよっ、やれば良いんでしょやればっ!」
シルフィは空中で地団駄を踏みながら、霧の中へ入って行ったエルフィを追った。
だがこの時、シルフィは周囲の警戒が甘くなっていた。
その所為で、背後から追跡する人影に気付く事が出来なかったのであった――。
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