第13話
「死んじゃった?」
「……どうでしょう。そんな簡単に死ぬのなら、この森には入って来ないと思いますが……ですがシルフィ、魔法を無闇に使わないようにとあれほど」
「説教はまたあとで。それよりもやる事があるんじゃないの?アルフのお姫様、エルフィア・オル・バーデリア様」
「その呼び方はあまり好きでは無いです。やめて下さい」
「にっしっし♪――じゃあ行こう。さっきから向こう側がうるさくてしょうがないもん」
彼女はそう言いながら、森の奥の方へと指を差す。
微かに魔力を感じるけれど、これと言って変わった事は見受けられない。
そう思った瞬間だった。
「――っ!?」
再び起きた地震。激しく上下する最中、私は森の奥の空に浮ぶ魔法陣を見た。
その魔法陣は闇のように黒く、そして徐々にアルフの森を覆い始めるのだった。
「っ!」
「エ、エルフィ!?ま、待ってよ!」
彼女の呼び止めなど聞こえていない。聞こえる訳がない。
今の私はそんな冷静ささえ、失ってしまっている……。
何故ならば、その魔法陣の下には『お母様』が居るのだから――。
◆◆◆
着いて来い。……そうその背中は語っていた。
姿勢が一ミリもズレる事もなく、綺麗な佇まいで森の奥へと歩いていく。
人の住めそうな建物が見え、その中から彼女の姿を見るやすぐに跪く。
ここは多分、彼女の森だ。単純に、僕はそう思った。
森の中心部分へ辿り着いたと思えば、そこには今まで見た中で最大の大樹が現れる。
彼女はそこに手を翳した瞬間、その大樹は応えるように根を開いた。
「さぁ人族の方、参りましょう」
「…………」
下へと続く階段。彼女の通る道を示すように、蝋燭に火が灯されていく。
驚きもしたけれど、酷く落ち着いているな僕は……何故だろうか。
女王である彼女が居るから?やっと両手両足が自由になったから?
いや違う。どちらでも無い。……何ていうんだろうか。
階段を下へ下へと行く毎に、感じるそれは熱だ。暖かい。とても。
「ではお話を致しましょう。その前に、改めて名乗らなくてはなりませんね」
そんな事を考えていたら、いつの間にかその場所に僕は居た。
森の最深部。外に居た時のように風は無く、人の気配しかしないその空間。
白いローブの身を包む誰かが、ゆっくりと椅子に座る彼女の横に立つ。
背後の入り口には、槍を持って僕を睨む者が二人。
外壁に並び、隊列のように決まった間隔を空けて立っている者。
そのそれぞれを視界に入れた瞬間、僕は知らないはずなのに呟いていた。
「――バーデリア……?」
「……驚きました。私の事を貴方は知っているのですか?」
「あ、いえ……何も知らないです。知らないはず、なんですが」
可笑しい事を口走った。そう思い、苦笑いを浮かべてしまう。
知らない。全く知らないはずなのに……。その言葉が頭に浮んだのだ。
自分の知らない物が頭に浮ぶ事はあるけれど、言葉が浮ぶ事は始めてだ。
「私はオルフィア・オル・バーデリアと申します。この森では『女王』などと呼ばれていますが、そんな大層な事はしておりません。私よりも、娘の方が魔力の扱いも上ですしね」
「は、はぁ……僕は、如月皐月です」
いきなり自信が無い様な事を言ってきた彼女。
だが周囲の者は、やれやれと言わんばかりに肩を竦めて笑い合っている。
その様子からして、これは冗談という事だろう。
「……っ?!」
そんな周囲の反応に溜息を吐いた瞬間だった。
ドクンと大きく脈を打ち、自分の居るこの場所の時間が止まる。
灰色に包まれて、何もかもが色を失っている。
僕も身体を動かそうとしても動けず、まるで何かに縛られている感覚。
自分の身体全体、周囲の者全てが拘束されているかのようだ。
『…………さて、仕事の時間だ』
「――――」
僕の横を通り過ぎながら、そんな呟きと共に進む足。
その灰色の世界でただ一人だけ、ゆっくりと動く誰かの姿が目に入った。
――やめろっ。
その人物はゆっくりと彼女に近づき、
――やめろっ!
その場で魔法陣を展開し、凍てついた瞳で言うのだった。
『さようなら。エルフの女王よ』
「やめろっ!」
『――っ!?』
そう叫んだ瞬間、僕に何が起きたのかは分からなかった。
分からなかったけれど、これだけは明白だ。
灰色の世界。時が止まったかと思えた世界の中。
僕も彼同様、動けるようになっていたのである事が明白であった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます