第12話
黒服の服の者は、そのフードを外して地面に膝をつける。
顔を隠したままでは無礼だから。……というのが主な理由だろう。
『そのままで結構ですよ。公の場では無いのですから、そのような礼儀は必要ありません。――その方が、例の侵入者なのでしょうか?』
『はっ。女王様、この者が森の中を移動していたのを捕らえました。侵入した経路はまだ吐いておりません』
「……(侵入した訳じゃないんだけどなぁ)」
エルフの人がそう言うと、女王である彼女は視線を僕の方へと動かす。
僕はその視線が合った瞬間に、軽く苦笑いをして首を傾げる。
そして気のせいか。彼女が微かに微笑んだように見えた。
『――そうですか。ではその方の身柄は私が預かりましょう。問題はありませんね?』
『なりませんっ!女王様は我らにとって、大事なお方。その方に万が一の事があっては困ります。どうしてもというのであれば、この中から一名お供をお選び下さい』
『必要ありません。人族の方、着いて来て下さい』
彼女はそう言って、僕の足を縛っていた縄を何かで切った。
手も足も動かした形跡は無い所を見ると、この世界にはやはり魔法があるのだろう。
さっき結界云々言ってたし、多分そうかな。そう僕は思う事にした。
『何故、拘束を解いたか。それは精霊を見れば分かります。彼に周囲に居る精霊は、とても綺麗な色を放っています。それが何よりの証拠です。疑うのであれば、精霊視の出来る同族に聞いてみるとですね。……では行きましょう。こちらですよ』
「……あ、はい」
僕は傍に居るエルフ達の視線から、逃げるようにして彼女の背中を追った。
ゆっくりと歩いてた所為か、僕はすぐに彼女の背後へと追い着く事が出来た。
そして森の中をしばらく進み、辿り着いた場所はまるで御伽話の世界のようだった。
そう僕は、今も良く覚えている。
◆◆◆
『……ばっ、馬鹿なっ!』
振り下ろされた剣は何かに弾かれ、私は目の前の人物を見据える。
彼の目には、私はどう映っているのだろうか。いや、聞くまでもないだろう。
そう怯えたように一歩下がられてしまっては、私自身がそう悟ってしまう。
分かり切っている。私の前に現れる者、来る者は皆……そういうのしか居ないのだ。
私はそれを知っている。知り尽くしている。
「どうしてそこまで驚くのでしょう?ここはアルフの森で、私はその森に住むエルフです。魔法の一つや二つ、備える事が出来て当然では無いでしょうか」
『くっ……おのれっ!――
彼は魔法を放とうとしたが、その行動よりも早く魔法を封じた者が居た。
私の肩で、両手を彼へと向けている彼女である。
『う、動けんっ!?』
「遅いよ。エルフィを倒したいなら、瞬きの早さじゃないとダメなんだから!」
「シルフィ、魔力を使って平気ですか?」
「これくらい余裕だよ!大丈夫。それよりも、この人どうする?……殺しちゃう?」
『なっ……お、思い出した。見た事あるような髪とその碧い瞳……貴様はまさか、エルフィアか。エルフィア・オル・バーデリアかっ!』
黒服の男がそう言うと、エルフィはゆっくりと彼へと向き直す。
見据えていた目を細めながら、小さく口を開いた。
「その目は、私は嫌いです。――さようなら」
彼女がそう言った瞬間、男の視界が真っ赤に染まる。
倒れた男の様子を見ながら、彼女はただ佇む。見下ろしながら……。
微かに風を纏った彼女は、肩に乗った彼女にも隠すように悲しそうな表情を浮かべるのだった――。
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