第11話

 迂闊な事を私は、今しているのかもしれない。

人影が見えて、地震が発生した時点で森の奥へと避難すれば良かった。

そう後悔しても、今の状況は遅すぎる事だ。考えても仕方が無い。今は……。


 「(この状況をどうにかしなければ……)」


 見渡せばキラリと光る武器に囲まれていて、一歩でも動けば斬られかねない。

それぐらい、この者たちのそれは空気と重なって私に伝わる。

頬を掠める風が、凍てつく氷のように冷たく感じる。風が……泣いてるようだ。


 『……エルフの少女よ。我々の邪魔をするならば、命が無いと思え。貴様一人で、我々を止める事は不可能だ。無駄な抵抗は止めておく事をお勧めしよう』

 「あら、意外とお優しいのですね。冷酷非道な者であれば、そんな生易しい言葉など言わず、前に立った者は斬り捨てる所だと思うのですが……」

 『我々は殺戮者では無い。ただ我々の狙いが貴様では無いだけだ』

 『……ここは任せた。我らは先に行こう』

 『あぁ、承知した。頼んだぞ』


 黒服の集団は、一人を私の前に残して何処かへ向かう。

すぐにでも追いかけたい所だが、ここで動くのは自殺行為と言えるだろう。

迂闊な行動は危険である。ここは機会を待つのみ……。


 「(エルフィ……少し時間を稼いで?一人なら、魔法でなんとかなるかも)」


 耳元でそう囁くシルフィの言葉。彼女は今、私の肩と髪の毛の間で身を潜める。

そしてそのまま、黒服へと向けて詠唱をし始める。ここは私が時間を稼ぐ時――。


 「……あなた方は、何の為にこの森に?先ほどの地震はあなた方の仕業なのでしょうか」

 『地精霊との契約には苦労した。とだけは言っておこう。何の為に、という質問だが……貴様に答える義理は無い。悪い事は言わない、大人しくしている事だ』

 「地精霊ノームは温厚な性格の持ち主です。その精霊との契約に苦労したという事は、あなた方はその地雷を踏んだという事でしょうか。……当然ですね」

 『なに?』

 「精霊というのは『清い心』を持った者にのみ、その声に応えてくれます。ですがあなた方のこの行為は『悪』そのもの。怒りの尾を踏んだとしても、可笑しくはありません」

 『貴様……我らを侮辱するかっ』

 「(エ、エルフィッ!)」


 黒服はそう言いながら、私の喉元に剣を突き付ける。

その剣を突き付けられた瞬間、私は黒服の者を見据える。


 「何を焦っているのですか?あなたが言ったように、私はですよ……殺すなら、その剣を振りなさい。さぁ」

 『はははっ、良かろう!ならば望み通り、あの世へ送ってやろうではないか!』


 黒服はそう言って、剣を天に掲げて真っ直ぐ私へと振り下ろしたのだった――。

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