第10話

 『最近、地震が多くて困るわ。そう思わない?』

 『ふふふ……姫様が執務をなさらないから、地精霊のノームが怒り狂ってるのではありませんか?』

 『そうだったら……私の風魔法で吹っ飛ばしてあげるわよ』


 そう言いながら、白いドレスで身を包んだ彼女は口角を上げる。

机に向かって書類を書き、手元の羽根ペンを所定位置に置き立てる。


 『……姫様、そろそろ』

 『ええ、時間でしょ?分かってるわ』


 メイド服に身を包む三つ編みの女性がそう言うと、ドレスを着た彼女は立ち上がる。

その背中に近寄り、促されるように羽織りを着させる。


 『……じゃあ行きましょうか』

 『はい。……ご武運を』


 そう言葉を交わし、メイド服の彼女は深々と頭を下げるのだった。


 ◆◆◆


 「…………」


 目の前に居る人達は、人間……なのだろうか。

そういえば、さっき会った彼女も長い耳をしていた。という事は、同じ種族の人。

この場合、ゲームとかに出て来る『エルフ』って事で良いのだろうか。


 『おい、人族の者。この地震はお前の仕業か?』

 「……え?」


 急な問い掛けに戸惑ったが、深く考えずに答えはすんなりと口から出た。


 「――いえ、違いますけど。魔法使いでも無いですし」

 『なに?』

 「な、何でしょう?」


 エルフの人が、僕の事を吟味するように目を凝らして見る。

頭から足の先まで、隈なく何かを確かめるように。上から下へゆっくりと……。


 『……ふむ。本当に魔法が使えないのか?』

 「え、ええ。使えませんし、やり方も知らないです。だから、こうして捕まってる事すら、何がなんだか……」


 僕はこの機会を逃さないように、解いてもらえるかと試してみる。

こうも視線の数が僕に向いている状態では、密かに縄抜けするのは不可能に近い。

だからこそ、逃げる為には創意工夫が必要になる。まぁ、その逆も有り得るのだが。


 『いやちょっと待て。だとしたら結界の反応は何だったんだ?』

 「結界?」

 『そうだ。お前、この森にはどうやって入った』

 「いえ、僕は目覚めたらこの森に居ましたけど……」


 エルフの人達は、僕の答えが納得出来ないのだろう。

疑いの目を、視線をこちらへ向けてくる。僕はその瞬間、何故か胸が苦しくなった。

いや……その理由は明らかなのだ。僕のトラウマであり、嫌いな過去の記憶と同じ目。


 「彼はこの地震とは無関係ですよ。エルフの民よ」

 『……女王様っ』


 その声に驚き、その場で膝を地に着ける者たち。

その視線が集まっている先を見た時、僕は目を見開いて呆然とした。

そこに居たのは、緑園に咲く花のような美しい女性の姿があったのだった。


 ◆◆◆


 「あなた方は、一体何者でしょうか?ここは神聖なアルフの森です。今すぐその薄汚い武器を捨てて下さい」

 「(エルフィ……ここは逃げた方が……)」


 その頃、一方で彼女は何者かに銃や剣を向けられていた。

黒服の集団は彼女を囲み、彼女……エルフィは身動きが取れないで居たのだった――。


 


 

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