第9話

 ――エルフィア・オル・バーデリア。

少女に関する言い伝えが、この森にはある。

一つ、その少女を怒らせてはならない。

一つ、その少女を汚してはならない。

一つ、その少女を……殺してはならない。と――。


 「……なかなか見つかりませんね。何処に行ったのでしょうか?あの人は」

 「知らなーい。もう別の侵入者が居て、その人たちに殺されちゃったんじゃない?」

 「物騒な事を言わないで下さい。この神聖なアルフの森で、そんな罪を犯す方が居るとは思えないのですが……」

 「エルフィは優しすぎっ!人間なんてロクな奴居ないよ!絶対にっ」


 両腕を胸の前に持ってきたり、腕を組んで怒ったような表情を浮かべる彼女。

私は何か、彼女の気に障る事を言ったのだろうか。

本当に人族が皆、そういう輩しか居ないと言って良いのだろうか?


 「でもあの人は、良い人だと思いますよ」

 「どうしてそう言い切れるの?まさか、一目惚れでもした?」

 「ち、違いますっ。そういう事ではなくて、彼の纏っていた空気が……」


 纏っていた空気が違う。そう言おうとした瞬間だった。

身体が上下に揺らされる程の地震によって、私は言葉に詰まるのであった。

森がざわつき始め、動物たちも慌てるように森の中を駆け出していた。

まるで何者からか、必死に逃げるように――。


 ◆◆◆


 「…………(はぁ、どうしてこうなったんだろ?)」


 世界が逆さまに見える状態で、僕は小さく溜息を吐いて思う。

宙吊りになったこの状況は、まるで火炙りにされる前の豚になった気分だ。

さっき成功したばかりの縄抜けも、今となっては意味が無くなってしまった。


 『……この侵入者をどうする?』

 『とりあえずは処刑だろう。我らの神聖の森に立ち入ったのだ』

 『だが念の為に、あのお方の許しを得た方が良くないか?』

 『……ふむ。……それもそうだな』


 僕を運ぶ二人の会話が、耳に入ってくる。

「あの方」というのは、一体誰なのだろうか?

どういう人なのか。それによって、僕の状況が変化するだろう。

そんな事を考えていた時だった。

ぶら下がっている所為でもあるのか、上下左右に激しい地震が発生したのだった。


 

 

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