第8話
「あーあ、いとも簡単に捕まっちゃったねぇ彼。あれは良いのかしら?」
「ボクは一応、全能力の底上げをしてあるはずだよ。それに気付かない彼が悪いね。それよりゼルス、何でキミが此処に居るんだい?キミの管轄はこの世界では無いだろう?」
「あたしは思うがまま、自由気ままに行動する事がモットーなのよ」
「それはただの『自分勝手』と言うんだよ。ゼルス」
メラメラと燃える炎の中で、如月皐月が何者かに捕まっている映像が流れる。
これは下の世界、つまりは人間界を視る為のモノである。
神にはそれぞれ、その下界を監視する責任がある。人間の行動を見届ける義務だ。
それがどんな行動でさえ、平等にしなければならない決まりになっている。
「以前、貴方が干渉しようとした彼はどうなりましたか?」
「犯罪を犯して、死刑になったわ。首切りされる前に、高笑いして死んだけど」
「この世には、様々な人種が居るからね。それは仕方無い。キミが干渉しても彼の場合、罪を犯す事を止めそうに無かったからね」
そう。人間には個性というものがあり、それを尊重するべきではあるのだ。
だがその個性を野放しにすれば、人によっては傲慢過ぎる者も出て来る訳でもある。
全く、難しい話だ。彼のように不幸を積んでいれば、そんな事は無いのかもしれないけれど……。
「(さぁ、この後はどうするんだい?如月皐月くん)」
◆◆◆
『……目撃者は殺すべきだがな。ここはあっちを最優先だ』
『あぁ、こんなガキには用は無ぇ!さっさとあの悪魔を排除すべきだ!』
『あぁ』
意識の向こう側から、微かに声が聞こえて来る。
そして足音が数回してから、周囲から気配が消えた事を確認して僕は目を覚ます。
「……ここは、いったい……?」
周囲の様子を再確認しようとした時、僕は自分の体に違和感を感じた。
動こうとしたら、ビクともしないのだから当然だ。――どうやら縛られたらしい。
「手首と足首を縛られたら、動けなくて困るじゃないか。……はぁ、よいしょ」
手首を捻るように数回。そして寝返りを打ちながら、肩に走る衝撃に奥歯を噛む。
やがて手首の縄は解けて、僕は再び気合を入れるように肩に触れる。
「……間接を一瞬だけ外して縄抜け。まさか実行する日が来るとは思わなかった。さて、次は足の縄を……」
足首で縛られた縄を解こうとした瞬間、耳元でヒュンと風を切る音と背後でガッと何かが刺さる音が聞こえてきた。
僕はゆっくりと背後のそれを見る。するとそこには、まだ刺さって揺れる弓矢があった。
『――そこを動くな、少年よ』
『貴様は包囲されている』
『もし動くのならば、我らの弓が貴様の身体に突き刺さるだろう』
「…………」
僕はどうやら、生まれてからの不幸がまだ続いているらしい。
耳元を弓矢が掠めた時点で、何かあるとは予想していたけれど……。
これは流石に、不幸が続き過ぎじゃありませんかね。
もし神様が本当に居るのなら、僕は声を大にして言いたい事がある。
でもここは、小さい声で今の心境と一緒に伝える事にするのが僕の恒例だ。
「――不幸よ、勘弁してくれ」
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