第6話

 「耳、長かったなぁ……」


 森の中を歩きながら、僕は小さく呟く。

当ても無く歩く森の道は、道という程の道ではない事が分かる。

でも誰かが通っていたように草が曲がっており、生えている木には何かの切り傷の痕跡に目が行く。


 「……野生の動物でも居るのかな?クマとか」


 付いている傷は、獣が引っかいたように見える傷が数ヶ所。

その近くには、何やら折れた木の棒のようなものが落ちている。

それが何なのか、この時の僕には分からなかった。


 ◆◆◆


 『森がざわついているぞ』

 『どうやら侵入者のようだな。この神聖なアルフの森に、命知らずな奴だ』


 手元で花飾りを作っていると、そんな声と急ぐ足音が聞こえてきた。

その急ぎようで、何かがあった事は明白だった。それは肩に乗っているシルフィも

感じ取っているようだ。


 「……エルフィ、良いのぉ?あれ」


 欠伸をしながら、目を擦って問い掛ける。

バタバタと急ぐ数人の背中を見つめ、私は完成した花飾りに視線を戻す。


 「――侵入者、というのはあの人の事でしょうか?だとしたら、森を歩かせた私の責任ですね。行きましょう、シルフィ」

 「あーい」


 私は立ち上がって、彼女と共に森の中を歩き出すのだった。


 ◆◆◆


 「――そういえば、ここは何処なんだろう?」


 僕は空を見上げて、高くそびえ立つ天に昇るような木々を見つめる。

何処、というのは場所ではなく……この世界自体の話だ。

森の成長具合が異常で、まるでビル街のような威圧感をも感じる程だ。


 「……ん?」


 見つめた木の先で、何かが動いたような影が視界に映る。

僕は気になって、通り過ぎた影を追う様に駆け出すのだった――。


 

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