第2話

  「――キミ、人生をやり直してみないかい?」


 ある放課後に言われた言葉。

僕はその意味を考えながら、ベッドの上へと倒れこむ。

いつも見ている何気ない天井を眺め、昨日の事を思い出していた。


 『……もしキミが、本当に人生をやり直したいと思っているのなら、ここへ来ると良い。そこにボクは居て、キミの事を待ってるから。キミが選ぶ事を祈っているよ、如月皐月くん』


 どうしてあの少年は、僕の名前を知っているのだろう。

それが一番の謎だったのだが、それよりも『人生をやり直す』というのは突拍子のない事で良く分からない。


 「やり直す、か。どうやって?」


 僕は疑問を口にした。

その方法もいまいちピンと来ないまま、僕はまた一日を費やす。

無気力に、無目的に、ただ機械的に……。


 「――やぁ、答えは出たかい?」


 翌日の朝。学校の屋上でまた昨日の少年と出会った。

彼はどうして神様と名乗っているのだろうか。そして、何故僕なのだろうか。

そう思いながら、僕は口を開いた。


 「君は、どうして……」


 だが聞きたい事を言おうとした瞬間、彼は僕の言葉を遮るように言ったのだ。


 「……キミは選ぶよ。ボクの事を信じ、そして生まれ変わる。これは運命という歯車で出来たことわり。キミが自分の人生に価値観を見出せない事も、ボクは知っているよ、如月皐月くん」


 僕はそう言われた瞬間、何気なくイラつきが込み上げてくる。

それが真実であり、僕の事を見透かされている事を否定したかったからだ。


 「何でも知っているみたいに言うね、君は」

 「皮肉かい?それとも自己嫌悪かな。どちらにしても、ボクが知っている事に嘘は無い。なら一つ、ボクが予知というのをしてあげよう――う~ん、そうだなぁ」


 そう言うと、彼はキョロキョロと辺りを見渡し始める。

やがて屋上のフェンスに手を掛けて、そのまま身を乗り出した。


 「なっ、何をやってるんだ!」

 

 慌てて手を伸ばし続けた僕は、その時の事を良く覚えている。

視界の全ての動きが、雲の動きよりも遥かに遅く見えたのを覚えている。


 「――キミはそのまま、ボクを助けようとして落ちていく」

 「……っ」


 横を通り過ぎていく彼は、そう呟いた。

いや、通り過ぎて行くのは……僕のほうだった。

ゆっくりとそのまま、遠くなる彼へ手を伸ばし続けたままに……。

真っ逆さまに――僕は落ちて行ったのだった。


 『ほら。予知の通りになったでしょ。運命には、逆らえない。誰にも、神であるボクにも』


 少年は目を細くして、灰色の空を一人で眺めて呟くのだった――。

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