第30話 今日はこのくらいにしといたるわ(予定)


「指したいって、へぇ……」


 ちょっとこう、興味をそそられるね。


 俺の評判を知ったうえで、あえてタニマチの看板しょって一局やりてぇって野郎がいるわけだ。


 つい先だっての『盆』のことを思えば――次は自分か、って青くなってふるえてた連中の腰抜け具合と比べれば、ずいぶん大したもんじゃァねぇの。


「プヒヒィ! 行幸行幸! よもや顔を出したその日に目当てがおるとはのぅ! ピッススゥ! どうじゃ異邦人ヴァヴァロイ。手はすいとるか? 無理にとは言わんがのぅ!」

「モチのロンよ。へへ、なんだぃ旦那楽しいじゃねぇの」

「……おぅい、リョマちゃん。一応ワシが今向かいに座っとるんじゃが……」

1七飛成ウノ‐セテ‐シェルバ‐プロモ

「――ふぉ⁉」


 パオロ爺っちゃんが盤を睨んだまま固まる。


1四桂打ウノ‐クァトロ‐レィーニョ‐コンヴォでじっちゃんが受けてから2四銀ディオ‐クァトロ‐スクゥドからトントンシャンシャンの七手詰み。ありがとうございました」

「即詰みでないか! クソガキこの爺をなぶる気じゃったな⁉」

「うるせぇ、気付いてた癖に」

「――ななななんのことだか?」

隣の二人に聞いてみな、、、、、、、、、、


 俺の言葉にビシリ、と体を強張らせるのは、ちょうど俺らの隣で指してた二人組。


 そのうちの一人、パオロ爺っちゃんの斜向かいに座るチェチェリオ爺さんに微笑んでやる。


「咳が続くんならよ、医者かかったほうがいいぜ。小僧は心配になっちまうよ」

「……おお、すまんのぅ。いやぁ季節の変わり目はいかんのぅ。けふけふけふぅ」

「いいってことよ。おれぁ年寄りに優しい優しいリョマちゃんだかんな」


 わはは。いやぁまったく俺ってば心が広いぜ。


「さて」


 一体なにがあったのか、やり取りがさっぱりわかってなさげな旦那(とついでに赤毛)に向き直り、両手を開く。


「見ての通りまっさらの空き手だ。やろうぜ旦那」

「――ふむぅ……。なにがなにやらわからんが。わからん、ということは、プヒヒス、期待が持てるではないか」

「恐れ入りやすぅ、へっへへ」

「ピッピスピス! 重畳重畳! おい! 席主! ワシの屋敷まで人をやってくれぃ!」

「へぇ旦那! どなたをお呼びすればよろしゅうございましょ!」

「荷上場ででも適当な小僧をつかまえて『赤鬼の建屋の件で呼んでいる』と言えばよい。ピッピスプヒィ! 万事飲ませておる!」

「へへぇ! ではあっしがひとっ走り行ってきますんで!」


 ピウスあいつ、マジでワンコロムーヴ板についてんな。


「まぁ俺も人のこと言えねぇけどぉ! 旦那! 旦那! なぁ頼むよ俺のことも囲ってくれぇっへぇえええい! 強いぜぇ、俺ってばつよつよよぉ!」

「ピィースピスピスゥ! どーぉしよぉかのぉ⁉」


 モミモミ揉み手ぇ!


「おい、リョマ。お前は一応私のだな。手のだな。わかってるか? なぁ」

「うるせぇぞ赤毛ァア! お前は後で事情聴取だオラ!」


 ところでなんかさぁ、これ、この。


 一つの建屋に順繰りに人がやってくる流れ、どっかで見たことあるな?


:::


 小一時間もしないうちに。


「へぇ、先生こちらです! すぃやせん狭苦しいところにお越しいただいて恐縮でへっへへへぇ……!」

「新喜劇だこれ」


 いよいよへりくだりが行き着いた感のあるピウスが『先生』を連れてきたときピンときた。新喜劇だこれ。新喜劇の借金取りが用心棒呼ぶ流れだ。パチパチパンチからドリルせんのかーいからのメダカ師匠の流れだ。


 となるとあれだな。


「ア゛ァ゛⁉ な゛ん゛だぁテメェコラ何の用だオッラァアン⁉」

「ピスッ⁉ なんだ突然⁉」

「オウオウオウダッシャラッケカッスゥ! ヤッゾラッ⁉ アッ⁉」

「ヒィッ⁉」


 すまねぇ旦那。様式美だ。


 俺はこの『先生』とやらにこうしなくてはならんのだ……。


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