第21話 オープン・セサミ


「三日、三日だぞ? 出て行って三日……。なんだこいつ。なんなんだ? 頭が……、おかしい?」

「失礼なやっちゃな」


 パチ公と別れた俺は、その足で真っすぐ警邏の詰め所に向かい、アルフォンシーヌを呼びつけていた。自慢じゃないが行くあてがねぇ。言葉こそ喋れど文字は読めねぇから似たような宿屋を見つけるのも苦労しそうだ。


「その点ここは、ホラ、みんな気心知れてるし? 良くしてくれそうやん?」

「……やっぱりこいつ頭おかしい……」


 あわわ、と言わんばかりに口元に手を当て震える十人長サマ。完全に狂人を見る目付きだ。


 そして冷静かつ一般的な人間の目付きだ。


 つまりそう。ドン引きされていた。


「ンだよや。つれねぇなぁ。あんなにバチバチ指し合った仲じゃぁねぇか。そんな目で見んなよ」

「やだ……馴れ馴れしい……怖い……」

「おのれリョマくんさん様! 下がれ下がれ! 十人長が怯えてらっしゃる!」

「リョマくんさん様のような狂人は刺激が強い! どうかお帰り願います! この通りです!」

「えー」


 自分で言うのもなんだが、イヤァらしい笑顔だったと思う。


「じゃーァいいや。その辺で好きにヤるわぁ、、、、、、、、、、、

「……!」

「色々とあるかもしれませんけどォ。よろしくお願いしますねェ? 貸しの分、、、、

「………………」


 うーん、新発見。


「……少し、中で、話を、しようか……?」

「えー、いやー、別に、時間もないんでー」

「お茶を出そうかッ! 菓子もッ!!」


 気の強そうな女がプルプルしてるとこって、俺、好きだわ。 


***


「でさぁ、お前さんもオマワリサンなら知ってんだろ? 賭場の一つ二つ。教えろ?」

「貴様本当に頭がどうかしてるな?」


 三日前将棋を指した応接間で、紅茶っぽいなにかとクッキーっぽい何かを供されつつ会話を楽しむ。アルフォンシーナさんは実に狂おしくこめかみが痙攣してらっしゃるが、たぶんこの国特有の喜びの表現だろう。なんせ笑顔だ。ひくひくって感じの超、笑顔。


 ……茶があるってことは『茶の育つ気候の土地』がこの国にはあって、この甘いクッキーがあるってことは、『砂糖が生産されてる』ってことか。


 しかも『急な応接に使える程度に常備されてる』


 いよいよ、俺の知ってるどの時代のどの国とも違うくせぇな。


「わかるだろ? 稼ぐあてが欲しいンだ。いつまでも俺みたいな風来坊が街の真ん中で一般人相手に暴れてるよか、『その筋の人間』の界隈で勝ったの負けたのしてくれてるほうが嬉しかろうがや」

「――ずいぶんと急くんだな」


 適当に相槌を打ったアルフォンシーナが、ズズ、と茶を啜る。


――『啜る文化』がある。


「十分儲けていたろうに。身内の目から見てもあの子は『上手い』ぞ? 客寄せを任せていればもうしばらくは安泰だろう」

「弱くなる」


 切り捨てるように言う。


「稼げるかもしんねぇが、弱くなる。もうだめだ。これ以上腑抜けてらんねぇ」

「――」

「あんだけ自信満々なお前があの有様だ。――いねぇんだろ。その辺の辻にゃ、ある程度以上強い奴が」

「わからんな」

「わからねぇってこたないだろがや」

「いや、違う」


 アルフォンシーナが、俺を睨む。


「貴様の出自が、だ」

「お察しの通りの異邦人よ。旅から旅の……」

「ショーギの腕しか持たず、言葉を話すことすらおぼつかず、見たこともない服に見たこともない持ち物をもった、その癖賭場を知らない、、、、、、、、、、流れ者の博徒だとでも?」

「――別に、隠してるわけじゃあないんだが。自分でも信じられねぇんだ」

「ふむ――。そうだな。泊まり先を工面してやってもいいぞ」

「おお、ありがってぇ。いやぁ、別におれぁこないだの牢屋でも構やしねぇがよ」

「その前に、一つ、質問に答えろ」


***






「リョマ、貴様は、『ここではない世界から来た』な?」





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