第48話

『――一昨日、3月30日に魔導特区で起きた巨大な魔物が町に侵入し、暴れた事件では新種と思われる謎の黒い巨人型の魔物と多数の魔物が町へと侵入した事が判明しています。また、魔物が侵入した場所付近は壊滅的な被害を受けており――』

「空から見ると被害状況が分かりやすいな」

「そうですね・・・・でも、その一部は私達がやった事なんですよね」


朝食を食べながらニュースを見ていた勇士は、一昨日の戦いで戦場となった町の一角が写し出されたのを見て他人事のように呟く。ジャンヌは気まずそうな様子でテレビを見ているが、被害の大部分の原因である勇士は気にも留めてない。

実際、その一帯は酷い光景が広がっていた。全壊を免れている建物はなく、瓦礫が地面をほとんど埋め尽くしている。一部、アスファルトが剥がれてその下の土が露出しているところまである。

さらに、その奥には大地が扇状に抉り取られ、山の一部も削られている光景がある。これは勇士の最後の攻撃によって産み出されたもので「少し魔力を籠めすぎたと思うが、罪悪感はない」とは本人談である。


「気にしないで良いと思うぞ。あれをほっておいたらこの町は確実に壊滅してたんだから、町の一角が壊滅的な被害に遭った程度で済んだんだから安いもんだろ」

「勇士さんはもう少し気にして下さい。やり過ぎて町に甚大な被害を出したんですから・・・・」

「はいはい」


小言を言い出したジャンヌを適当にあしらいつつ、勇士は朝食を食べ終わる。


「ご馳走さま」


空になった食器を手に持ち、台所に行く。


「ご馳走さまでした。手伝いますよ」


そう言うとジャンヌは食べ終わった食器を持って台所に行くと勇士の隣に立ち、食器洗いを始める。


「学校はいつからはじまるんですか?」

「そうだな・・・・魔物侵入の事件はあったが、予定通りに4月10日に始業式をするんじゃないか」

「・・・・なるほど」


少し間を開けて頷いたジャンヌに勇士の勘が何か善からぬ事を考えていると訴えかけているが、自分に害は無さそうだと放置する。


「それよりも、この後は修行だぞ。怪我はもう良いのか?」

「はい、大丈夫です」


あの戦いで負っていた傷は回復魔法で治してあるが、大事をとって今日から修行を始める事にしたのだ。人の身で神域に到達した勇士から教わるとあって、ジャンヌのやる気は十分だ。


「それと、修行についてお願いがあるのですが ―――」



「ふーん、私達がこの町を離れている間にこんな事が起きるなんてね」


部屋に凛とした声が響く。少女は背もたれに寄りかかり、紙の束を机の上に放る。そこには一昨日起きた魔物の侵入事件についての事が書かれていた。


「・・・・飛鳥、確認された魔物にSランク相当の魔物がいたというのは本当なのかい?」

「ええ、本当よアーサー」


飛鳥と呼ばれた少女、黒髪黒目の少女は斜め後ろに視線をやりアーサーと呼んだ男を見た。彼は金髪碧眼でいかにも紳士そうな優しい表情をしている。だが、顔に浮かべていた微笑みは飛鳥の答えを聞いて消える。


「それで、監視カメラに写ってた金髪の少女についてどう思う?」

「十中八九、英雄だろうね」

「あなたの知り合いじゃないの?」

「残念ながら、金髪の少女なら心当たりはあるけど、彼女ではないよ」


飛鳥はジャンヌの写っている写真を見せるが、アーサーは首を横に振った。


「天界で他の英雄と交流は無かったの?」

「無かったよ。僕ら英雄は天界では基本的に深い眠りについているんだ。神々なら問題なくても、人間の精神は天界で永久の時間を過ごしていると、徐々にだけど何事にも無関心になっていってしまうらしいからね」

「ふーん、そういうものなのね」


どうでも良さそうに相づちを打つ飛鳥にアーサーは苦笑する。


「それより問題なのは此方ね」

「もう既にサポーターがいるようだね」


飛鳥が机の上にあった別の資料を手に取る。そこには勇士が写っていた。


「そ、でもよりにもよってコイツがサポーターなんて・・・・ハァ、問題大有りよ」

「どうしてだい?」


飛鳥はアーサーに資料を手渡しながら溜め息を吐く。その様子にアーサーは首を傾げるが、資料の内容を見て直ぐに納得した。


「ああ、成る程」

「―――― 天霧 勇士、学業成績B、魔力値E、魔法実技E、体術実技D、実技がほとんど赤点ギリギリのってやつよ。まあ、そこら辺の一般人じゃなくて魔導学園の生徒だった事が不幸中の幸いね」


アーサーから返された資料を見て、もう一度溜め息を吐く。そこには悲惨な成績が載っていた。勇士の実力を知る一部の者や神々が見れば、同姓同名の別人だと思うだろう。それほどまでに実技が酷かった。


「どうするんだい?」

「分かりきった事を聞かないでよ、アーサー。始業式の日に呼び出してサポーター契約を解約するように説得するわよ」

「飛鳥、それは説得じゃなくて、脅迫じゃないのかい?」

「失礼ね。私だって脅迫なんてしなくないわよ。最初はお金とかで交渉して、それでも応じないようなら、最終手段として脅迫するのよ」


茶化すように言うアーサーにジトっとした目線を送り抗議する。


「ははは、ごめんね。交渉が成功すれば良いね」

「ええ、そうね。彼のためにも、世界のためにも・・・・」

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神域の元英雄と終焉戦争 暁 虎鉄 @Jgityo

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