第47話
「凄い・・・・これが『神域の英雄』の力・・・・」
ジャンヌは目の前の光景を見て驚愕していた。戦いは勇士が終始圧倒していた。魔物の攻撃は通用せず、逆に彼の攻撃は拍子抜けするぐらい簡単に通っていた。
巨大な魔物に小さな人間が挑み、勝つ。それは典型的な英雄譚しかし、それ故に人の心を動かし夢と希望を与える。
勇士は紛れもなく英雄だった。その英雄が自分を助けに来てくれた事に嬉しさを感じる。
「・・・・・・・私の英雄」
ジャンヌは常人よりも遥かに強い精神を持っている。だが、やはり少女なのだ。戦場にいる時や教会に捕まっていた時、火刑に処された時、自分を助けてくれる英雄の存在を心の何処かで望んでいた。前世にはいなかったが、今回はいた。それも、最強の英雄が。そう思うと、心が温かくなるのを感じた。
その温かさを感じていると、視界の一部で白い光が町の一角ごと魔物を包み込むのが見えた。その光景に呆然としていると、
「よう、ジャンヌ。終わったぞ」
後ろから声をかけられた。その声の主はジャンヌを助けた時のように笑っていた。SSランクの魔物を倒したというのに息切れすらしていない。まるでその結果は至極当然の事だと豪語するようにその事を自慢すらしない。
いや、実際そうなのだろう。彼は『神域の元英雄』なのだから。
「勇士さん、お疲れ様です。それと・・・ありがとうございました」
「何が?」
勇士はジャンヌに急に感謝された事に驚いた。勇士には感謝されるような事をした覚えがないからだ。
「助けに来てくれた事についてですよ」
「ああ、そんなのただの気紛れだ。俺は英雄じゃないからな」
『何を恥ずかしがっておるのじゃ・・・・魔物が出現した後、直ぐに儂の元へ来たのは主殿じゃろうが。しかも血相を変えておったのう』
「おい!」
「か、刀が喋った・・・・・・?」
ジャンヌの事が心配だったと素直に言えない勇士に常夜が呆れて口を挟む。
まあ、本当の理由の隠蔽に関しては助けに来た時に「無事か?」と聞いている時点で、いささか手遅れな気もするがこの際置いておこう。
一方でジャンヌが漸く刀が喋った事に気付き、驚いてそれどころではなかったので、本当の理由についてはうやむやになった。一応は勇士の目的が達成されたと見るべきだろう。もっとも、ジャンヌが冷静になるまでの僅かな時間稼ぎにしかならなかったが。
『何じゃ、気づいてなかったのか?儂は常夜、見ての通り刀じゃ。主殿とは前世からの付き合いじゃの』
「常夜さん、宜しくお願いしますね。私はジャンヌ・ダルクといいます。ジャンヌと呼んで下さいね」
『うむ、宜しく頼むぞ』
「じゃあ、帰るぞ」
常夜とジャンヌの自己紹介が終わったところで勇士が声をかける。
「あの・・・勇士さん?」
「ん?」
先程とは違い不安そうな顔してジャンヌが尋ねる。
「・・・・私は勇士の家に居てもいいんでしょうか?」
「はぁ、そうじゃないなら、助けになんて行くわけがないだろう」
「はい!ありがとうございます!」
「お、おう」
不安そうな顔が明るくなったのを見て勇士が照れる。
「さて、俺の手に触ってくれ」
「?分かりました」
勇士の指示に従ってジャンヌは勇士手の上に手のひらを重ねる。
「・・・でも、急にどうしたん――――」
「――――『
ジャンヌが言い終わる前に勇士が魔法を発動させ、炎の明かりに照らされた瓦礫だらけの風景から家の玄関の中に景色が一瞬で変わった。
「えっ、ええ!?」
急に景色が変わった事にジャンヌは驚きの声を上げ、目を白黒させる。
「転移魔法の『
「・・・・・高度な転移魔法を無詠唱で、しかも移動に便利だから使ったんですか・・・はあ、貴方には驚かされるばかりですね・・・・」
ケロっと問題発言をした勇士にジャンヌは驚きつつ呆れた目で勇士を見る。
「まあ、良いだろ?何に使おうが俺の勝手たしな」
「・・・・・そうですね、一々気にしてたら身が持ちそうにありません」
勇士の考え方を聞いて、ジャンヌは常識によって判断する事を諦めた。
「そう言えば、いい忘れてたな。お帰り、ジャンヌ」
一足先に靴を脱いで家に上がっていた勇士が思い出したようにジャンヌの方に振り向き、微笑を浮かべながら、そう言った。
「・・・・・・はいっ!ただいま戻りました!」
『これで一件落着かの』
ジャンヌは突然の事に驚いたが、直ぐに元気良く返事をした。それを見ていた常夜が締めくくる。
「あれ?そう言えば、なんで転移魔法を使えたのにマンションから飛び降りたんですか?」
「あー・・・・まあ、あの距離ならそっちの方が楽なんだったんだよ」
ジャンヌから指摘を受けた勇士は表情を凍りつかせ、ぎこちなく目を反らす。
『やれやれ、もう少し続きそうじゃのう・・・・』
常夜は呆れてそう言った。
◆
勇士と魔物の戦いを山の中から観戦している男がいた。洞窟で魔物に力を与えた黒幕とおぼしき男だ。ジャンヌと魔物が戦っている時は笑みを浮かべていたが、今はその笑みも鳴りを潜めている。
「成る程、確かにあれは凄い。女の英雄は予想の範疇だったけど、彼は予想外の強さだね。道理で僕が作った変異種の腕をあんな風に斬れる訳だ。一体何処の英雄だろ?警戒しとかないとな・・・・僕の計画に支障が出るかもしれない」
眉間に皺を寄せ、考え事をブツブツ呟いていた男は急に顔を上げ、ヘラリと笑う。
「まあ、良いか。言面倒なのが来そうだし、早くここから離れるとしよう。あっ、そう言えば、帰ったらこの顔を変えとかないとね。バレちゃうかもしれないしね」
男は不気味な事を言うと、その場から素早く立ち去った。
「む、一足遅かったか。ここにいたのは確かなのだがなぁ・・・・大物を逃がすとは我輩も腕が鈍ったであるか?」
数分後、町にいた魔物を駆除し終わった武蔵が男がいた場所に現れた。足跡などの痕跡を調べ、先程までいた事を知ると、武蔵は盛大に肩を落とした。
「・・・・仕方があるまい。奴が再び戦いの舞台にたった事だけでも良しとするのである」
渋々といった様子でそう言うと武蔵もその巨体を翻し、立ち去った。
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