第30話 お嬢様に休息などない

「あー…疲れた」

広い部屋の中、大きな高級ソファーの上でだらけている女性が盛大にため息をついている。

「お嬢様、失礼なことを一つ言いますが、その姿勢はとても品がありませんしお嬢様はただ呼吸をしてだらだら寝っ転がっているだけでどうやって疲れるのでしょうか全く掃除もなにも出来ない女性で取り柄なんて金持ちということと顔だけだから北条財閥のお嬢様なのに未だに求婚をされないんですよ分かっていますか?」

「あんた、めちゃめちゃ失礼なことをさらっと…しかも全然一つじゃないじゃない。」

早口で捲し立てられたことに腹を立て、ふん、と鼻を鳴らすが生憎ソファーに寝転がりながら腕を組んでいるだけであり、なにも威厳がない。

「私が疲れたのは、何かをして疲れたんじゃなくて、あんたたちが色々やらかしてくれるから疲れてるの。云わばツッコミ疲れね」

「はぁ、わたくしは何もやらかしていませんが…やらかしているのはあいつかと」

そう言い無駄に広いキッチン(これまた高級なもの)を指差す。ジュージューといい音をたてて黒いフライパンの上のソーセージは転がる。フライパンの柄を握っているのは、後輩の隼人。天然ドジでおまけに阿保だが、危ないからといって任せてなかったが、最近実は料理上手ということが発覚。それ以来料理は大体彼が担当している。

「バッファローを買ってきたり壺を割ったりってあいつろくなことしてませんよ?」

「ちなみに言うけどそれの大体はあんたも絡んでいることだから。」


…そうでしたっけ?私の記憶には御座いませんね。

「というか、ツッコミに疲れたって言った側からツッコミさせるなんてどういうことよ…鶏?三歩歩いたら忘れるの…?」

「お嬢様、私一歩も歩いていないのでそれはないかと」

「あらそう、じゃ鶏以下ね」

冷たいですね…お嬢様の仕事はツッコミなのに…

「私の仕事は恋愛じゃなくて?」

「お嬢様、ここには恋愛などなくほとんどがコメディでございます。タイトルに騙された人も多いのかと…」

あらそう、というようにまたソファーに寝転がりテレビをつける。

「ねえ、今日の夕飯は?」

「お嬢様が昨日残した鍋ですね」


長い沈黙が訪れる。

「いや、仮にもお嬢様だからそういうのは無くないかしら?厳しくない?」

「残念ですが、お父様にパーティーなどに呼ばれたときのために残すことはさせるな、と。」

くーっ、と歯を食いしばるお嬢様。

「鍋の最後の具が……焦げてたんですもの…」

ぼそっと衝撃の事実を呟く。

「………え?」

「最後の〆のうどん、焦げてたのよ…」


チラッ、と隼人を見る。こちらをジッと凝視したまま固まっている。

「いや、あの………焦げてた、んですか?」

冷や汗が彼の顔から落ちる。さーっと血の気がひいて一瞬にして隼人の周りの空気が凍りつく。

プスプス、とそこに似つかわしくない音が…


隼人の手が握っているフライパンから、焦げ臭い臭いが…

「「「あ」」」


結局その日から私と隼人との料理当番は、半分半分になった。そして、その後もお嬢様のツッコミも休む暇もなく…隼人への怒声が飛んだりもしましたよ。

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お嬢様はわがままでいらっしゃる 志貴野 凛音 @nekota-kurona1

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