第10話 再び霧深き森の中に

 日が昇り、明るくなってから森の中に入って行く、中に進むにつれて、だんだんと霧が濃くなっていった。

 まだ先が見えるのだが、このまま跳ねていくと危なそうなので、『重力制御装置』の出力を落として歩いて行くことにする。

 それでも、跳ぶように軽やかに。


 ある事にも気がついた、入ってすぐくらいの木々は、螺子くれてはいるけど、まだ素直に立っていた、でも進むにつれて一定方向に緩やかに曲がりだしている。

 おそらく、この森の中心に向かって。


 着地した地面が揺れて転びそうになり、その場から飛び離れる。

「な、なんだ?」


 ガサガサと音を立て、地面から何か出てくる。

 それは、大型犬くらいの大きさの、甲羅で覆われた蜘蛛。

 足の長い大きなヤシガニといった感じだ。

 コイツもびっくりしたんだろう、お互いしばらく見つめあってしまった。


 蜘蛛が「はっ」って感じで、前足を上げて威嚇しだす、俺も我に返って踵を返し逃げ出そうとした時。


 何か後ろで、すごい勢いで動く気配がして。

 ぼりっ。

 固いものをかみ砕くような音がした。

 ぼりぼりぼり。


 恐る恐る振り向いてみると、そこには地面から頭を出す異形のモノ、頭からイソギンチャクのように何本も触手を生やし、ソレで蜘蛛を捕まえボリボリとかじりついている。

 ミミズのような芋虫のような、白いブヨブヨとした体で小さい足を動かしズルズルと地面から這い出して来る。


 やばい、やばいヤツだ、この世界に来てぶっちぎりにやばい。


 蜘蛛を食べ終えたソイツは、俺の方を振り向き触手を広げ、牙がびっしりと生えた口を開けて襲い掛かってくる。

 逃げ出した、後ろを振り向くような余裕はない、俺を追ってくるソイツが、木々と擦れ合いぬめるような音、のたうち地面と当たる音、俺のことを追いかけてくる。


 こちらの方が移動速度は速いみたいで、少し引き離すことができたようだけど、相変わらず追ってきているようだ。

 霧はだんだん濃くなってきている、5mくらい先はもう見えない。


 不意に腰のあたりでショートするような音がした、体に重みが戻る、重い。

「うぉおぉおおああああ」

 勢いがついて止まらない、体が転がる、前に何か居る、人のような……いや、この世界に来て初めて出会った気味の悪い奴ら、何かしている、その中に転がりながら突っ込んだ。

 全員吹き飛んでいったせいで、何をしていたかわかってしまった。


 俺の居た世界でよく見た服、血まみれで食い散らかされた女性だったモノが、そこに居た。

 おそらく俺と同じように、この世界に迷い込んでいただろう彼女の無残な姿を見て、気分が悪くなり嘔吐してしまった。

 突きつけられた死、俺もこうなっていたかもしれない。


 よろよろと立ち上がると、あいつらも立ち上がってきた、口の周りを赤黒く染めている、それを見てまた気分が悪くなったが、早くここから逃げ出さないと。

 一匹がきしむ様な声を出して威嚇してくるが、その後ろから触手がまとわりつき、不気味な咀嚼音と共に芋虫の化け物の腹の中に納まっていく。


 かまってはいられない、早く逃げ出さないと。

 俺は、足に力を込めて逃げ出した。

 どのくらい走っただろうか、重い身体を引きずりおぼつかない足取りで前に進む。

 頼みの『重力制御装置』は動かなくなっている、故障か、燃料切れか、もはや錘にしかならないので捨てていく。


 アイツら全員を腹の中に収めて満足したのか、芋虫の化け物は追ってこなくなった。

 霧も濃くなり周りの木ぐらいしか見えなくなってきた。

 急に不安になる、どこまでも、この霧の中彷徨うんじゃないかと。


 不意に目の前に、白い壁が現れた。


 いや、周りよりも濃密な、壁に見える霧の塊。

 指で触ると、ゆっくりと動いているのがわかる。

 この森の中心で、霧が渦巻いているのだろう。


 ここが目的地だ、大きく深呼吸する、空気が冷たい。


 この中に入れば元の世界に戻れるのだろうか?

 それとも突き抜けるだけ?

 ひょとしたら別の世界に行ってしまうかも?


 俺は、もう一度深呼吸をする。

 もう、迷っても仕方がない、俺は覚悟を決めて、足を踏み出した。


 元の世界に帰るために。


 ー終劇ー

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霧の町から異世界に 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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