第9話 元の世界に帰るため

 天井を思いっきり蹴り、入り口の外に跳ぶ。

 巫女にはまだ気づかれていない。


 着地と同時に、地面を蹴り今度は横に思いっきり跳ぶ! 


 振り返って見るが気づかれた様子はない、勢いよく跳ねたせいか、あっという間に離れていく。

 よし! 少しづつレバーを動かし調整していく、だんだんと体が下に落ちていく。


 ……あれ? コレまたやっちまったか、結構な勢い付いてるから、このまま着地するとやばいよな、下は大岩とかはないけど、草原てほどでもない、所々地面がむき出しになってるような場所だ。


 あぁ、もうどうにでもなれ! 覚悟を決めて膝を抱き体を丸め目をつぶった。


 地面に当たり転がっていく、思ったより衝撃がない、軽くなっているおかげだろうか、それはいいんだが。

「目が回るぅ」

 いい加減気持ち悪くなってきたところで、転がるのが止まる。

「うぇえぇええ」

 か、カッコ悪い、いや、カッコなんてどうでもいい、落ち着いてから寺院の方を確認する、かなり遠くまで跳んできたようだ。


 俺の進むべき方向には、川沿いに広がる緑の森。

 そう、俺が流れてきた川を逆登って行くつもりだ。

 この森の先にある、あの霧の森、あそこまで行けば元の世界に戻れるかもしれない。

 そうだ、あの森を……、あれ?

「あぁ! 食い物が!?」

 背負ってきた食い物が、転がったおかげで飛び散らかってしまった。

 手近にある物だけ拾い集めると、気を取り直して森に向かって歩いて行くのだった。

 とほほ。


 ……


 川沿いを歩いているので、水には困らないけど食料が心もとない、まぁ、節約していけばいいか。

『重力制御装置』のおかげで体が軽い、あとどのくらい進めばいいかわからないけど、かなりの距離を稼げたと思う。


 日が陰ってきたので、そろそろ休む場所を決めないといけない。

 夜のうちに歩いてもいいけど、色々と危なそうだしね。

 火を起こせないし、地面で寝ると危なそうなので、木の上で寝ることにしている。

 跳び上がり、なるたけ上の方の枝に体を縛り付けて寝に入る。


 ほどなく星空が広がってきた、異世界の星空は綺麗だ、空気が澄んでいるせいなのかもしれない、元の世界より星の数が多いような気がする。


 目指す霧の森も見えてきた、遠くから見ても禍々しい。

 今の俺なら、このペースのまま後1日も進めば着くだろう、オーバーテクノロジーさまさまだ。


 それに、ここまで猛獣とかに襲われなかっただけでも幸運だろう。

 一度、甲羅を持った熊のような生き物に会ったが、うまい事スルー出来た、向こうも興味なかったんだろう。


 ……


 一日中、まさに跳ぶように歩き、日が傾くころに森が途切れた先の崖に着いた。

 この崖の上に、あの霧の森がある。

 迂回する必要もないので、ロッククライマー顔負けの軽やかさで、崖を登って行く。

 崖の上には、あの霧の森が広がっていた、霧が薄く漂い螺子くれた黒い木々が顔を見せている。


 もうすぐ暗くなるので、森に入るのは明るくなってからだ。

 目の前の森は、不気味に静まり見ているだけで寒気がしてくる。

 思えば、ここに来てから幸運続きだったのかもしれない、どこで死んでいても可笑しくはなかった。


 ならば、もう少し、もう少しだけ幸運が続いてくれますように。

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