第12話 ヴィーシャの家づくり
ヴィーシャの成果は、町に複雑な反応をもたらした。
単純に獲物が獲れたことを喜ぶ人もいれば、それが食肉にならなくてがっかりする人もいたし、さっそく狼の皮を剝いで
「まあ、ヴィーシャ。なにもあなたがそんなことをしなくても良いのよ?」
「前は乗り気じゃなかったじゃない。心変わりなんて、どうしたの?」
母と叔母はそんな風に気遣ってくれたが、無理してるわけじゃないよ、とちゃんと説明する。
恐らくかつては猟師さんが間引いていたのだろう狼が、冬に餌を探して森から出てくるなどということになれば大事になりかねない。いまこの町で、狼を敵に回して戦えるのはヴィーシャしかいないのだ。
「でも、危険なんでしょう? そんな血塗れになるような怪我をして……」
「これ、狼の返り血だよ」
井戸で体を拭って、怪我をしていないことを示すと、ようやく二人とも少し落ち着いたようだったが、それでもヴィーシャの狩場行きに良い顏をしなくなった。
ヴィーシャとしては、意外なほど狩場が気持ちよかったので、もう一度二度くらいなら構わないかな、という軽い気持ちだったのだが。
食糧問題は相変わらず解決していないし、住宅問題は言うに及ばず。狼の毛皮はどのくらい冬を越すのに役立つだろうか。
次の安息日に、町役場で新聞を読んでいたヴィーシャは、状況の好転を感じることになった。
「あ、新聞が八面になってる」
それまで一枚の紙を折った四面構成だった新聞が、紙二枚を二つ折りにした八面構成に変わったのだ。これは新聞社自身にとっても嬉しい出来事だったようで、八ページ化について論説が載っていた。
これまで軍需に注入されていた資源や電力、労働力といった工場生産力が民需側に振り向けられるようになり、紙の生産力が増加したことを受けての増ページだとか。紙の配給制が解除される日も近い、と希望が謳われていた。
「紙って配給制になってたのか……」
軍にいたヴィーシャにとっては初耳だったが、大戦末期の民間の状況は本当に酷いものだったようだ。この町から出征したり、徴用された人たちからの手紙が届かない原因の一つなのかも知れない。
工場に動員された女性たちは、少しずつ動員解除されているそうだが、当面の労働力を確保する必要性から、多くは来春以降になる見込み。各地で捕虜になった兵士たちも、捕虜移送計画では連邦と共和国が渋っているとかで、当面帰ってこれないらしい。
「早く解放されると良いけど……でも今戻ってこられても困るんだよね……」
現在の食料状態で出征兵士たちに戻ってこられても、冬が越せなくなるだけという事情はヴィーシャにも理解できる。とはいえ、連邦の収容所に送られてしまった兵士たちの扱いを思うと、一刻も早く救い出さなければ、とも思うのだ。
そして最大の朗報は、増えた紙面に追加された、生活改善コーナーだった。
『冬季シェルターの作り方』
戦争によって家が住めなくなり、バラック等に仮住まいをしている人向けの、簡易的な避難所の作り方。まるで自分たちに誂えたようだ!
「なになに、地面を一メートルほど掘って、半地下構造にして屋根をかける?」
地下というのは一年を通じて温度変化が少ない。無論、日照や湿度など、別の問題は生じるが、この冬を耐えるだけと割り切るならば、応急住居として充分機能する。
この構造なら屋根を支える柱も短くて済み、場合によっては屋根を直接穴の上に渡してしまっても良い。
「これって天蓋付きの塹壕じゃない?」
塹壕にも色々な種類があって、航空機から隠蔽する目的で、簡易的な屋根が付いた塹壕は野戦司令部等によく用いられた。もっと本格的なトンネル陣地よりも簡単に作れ、何しろ建築に対する知識等が必要なく、難易度もバリケード作りと大差がない。
「これなら私にもできるかも!」
新聞を持ってくるくる回りながら、これで冬が越せるかもしれない、と、記事に感謝を捧げるヴィーシャだった。
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