第6話

 ユミの手は和也の下半身を布地の上から刺激している。経験がないゆえのぎこちなさが、妙に和也の感情をたかぶらせて、興奮してくる。

「和也さん、こうでいい?」不安げな眼差しでユミが問いかけてきた。


 ユミの成仏について頭を働かせたので、和也の感情は一旦は沈静化していた。なので、今なら簡単に引き返せるぞ、今なら。和也はそう考えた。

「あ。ええと、ユミちゃん。無理しないでもいいからね?」と、和也はユミに優しくやんわり提案してみた。ところが、ユミはニッコリとした微笑みをたたえて、澄ました顔で答える。

「あ、ほら。したことはないけど、小説や漫画とかネットに動画なんかもあるし」

 動画というとエッチなビデオだろうか。外見は清楚な雰囲気で成績優秀なユミにははまったく似合わない。


「ど、動画?」和也は思わず問いかけてしまう。

「女性向けのそれ用のビデオもあるのよ」

 ユミはあっさり答えた。なるほど。何事にも興味を示すユミは、エロの探求にも余念がないのかもな。こうしている間も、和也の下半身を布地の上から、ユミはぎこちなくさすっていて、和也の感情は昂ぶって仕方がない。


 ただ和也に快感を与える行為も、ユミに満足感を与えて、この世への未練が減ってしまうのではないか。とても女性は疲れそうだし、ユミは満足感を得るのだろうか。ユミのこの世への未練が減らないのならば、すっきりさせてほしい気持ちも、かなりというか充分ある。和也の気持ちは揺れに揺れた。


「ああ、なるほど……でも……」と、自分でもよく分からない返事を、和也はしてしまう。

「うん。手とここでね……。和也さんが満足してくれるといいけど、下手だったらごめんね」

 ユミは自分の唇を、右手の人差し指で指差す。あくまでユミは、和也の気持ちを優先した心遣いをしてくれるのだ。モデルやアイドルにもなれそうな、清楚な雰囲気のユミがおれの欲望を満足させてくれるだと?


 和也は想像するだけで、感情が昂ぶってしまった。とはいえ、八、九歳年上の元既婚者が未経験の女子大生相手にがっつくのもみっともない。ユミには優しく対応しないと、今後の関係にも支障が出るかもしれない。


「ユミちゃん、無理しないでいいよ」和也は努めてジェントルに声をかけた。ユミは、何も身にまとっていないため、薄暗い照明でも身体の白さが際立っている。そして、「無理じゃなくて、嬉しいの」と和也の下半身に顔を近づけ、上目遣いで和也を見つめる。ユミも昂ぶっているのだろうか。瞳は潤んでとろんとした目つきだ。和也の興奮度は一段と高まってしまう。


 ユミは聞こえないほどの小声で、「ここを優しく触るときっと和也さんが……」と直接触り始める。ユミの手のひんやりとした冷たさを一瞬感じたが、大丈夫。快感が上回っていて、和也の勢いは減衰げんすいしない。

「硬くてすごく大きいけど、大丈夫かなあ」

 ユミは首をかしげていたが、意を決したように口を大きく開けて和也を満足させようとした。和也はユミの気持ちが嬉しく、また昂ぶった感情を一気に放出できる満足感を期待していた。だがしかし――ヒヤリと冷たいユミの体温を、和也は大いに感じてしまい、興奮は急速に冷めてしまう。


 ――えちまった。

 坂口和也、一生の不覚。中折れってやつか。一度この状態になったら、再度立て直すには、かなりの時間を要する。和也は、智美との間に一度経験があった。記憶を辿ると、仕事のトラブルの対応に頭を悩ませていて、和也が精神的に追い詰められていた時期のできごとだ。自分の不甲斐なさに、和也は頭を抱えたくなった。だが、まずはユミへの対応が優先だろう。


「ユミちゃん、ごめん。ちょっと一息、入れさせて」と、優しくユミを抱き寄せて、二人に掛け布団が掛かるように、寝具をセットし直す。ユミを右腕で腕枕をして、優しく頭を撫でてねぎらった。

「もしかして……私が下手だったから?」

 ユミが不安げな表情で、和也を見つめている。やはり自分のせいだと思うよな、ユミは自省的な部分がかなりあるから、避けなくてはいけないぞ。

「ユミちゃんのせいじゃないから、安心していいよ。男にはたまに、こういう事があるんだ」

 言葉を選びながら、和也はユミに言葉をかける。


「そうなんだ……。和也さん、大丈夫?」

 きっと、ユミは和也の身体の問題だ、と考えたのだろう。不安げな表情で尋ねる。まずはそれでいい。

「久し振りに長時間運転したから、疲れていたのかも。風邪をひかないように、羽織ろう」と、和也は提案して、ユミにパジャマを着せてやる。とても名残惜しいが、美しく刺激的なユミの身体とは、しばらくお別れだ。


 それでも、ユミの身体の柔らかさを感じていたいので、下着は着けずにそのままパジャマを着せた。

「えへへ。和也さんに着せてもらうなんて変な気分!」

 照れたような笑顔になったユミに、和也はひとまず安心して、二人で布団に横になった。

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