第二章(土・日)

第1話

 和也は高速から降り、しばらく一般道を走らせて、空室表示があった一軒のホテルの駐車場に車を停める。独身時代にラブホテルは何度も利用した経験があるので、戸惑うことはなかった。そのホテルは駐車場の二階部分が客室となっていて、利用客は駐車場脇から階段を上がって、部屋に入るシステムだ。


 和也は、ユミの左手を取り、階段を上りながら考える。彼女が一般の独身女性ならば、全く問題はない。ユミは色白で、一見清楚で美形な大学生。和也も、彼女の性格に好感を持っている。事実、一年間余り禁欲生活を続けた和也の身体は、激しくユミの肉体を求めている。幽霊の女性と関係を持つと、どうなるのだろう。昼に『くまむら』で伝えられた修行僧の言葉を和也は思い出した。全く想像がつかない。


 ――現状を受け容れて。

 ユミの言葉を思いだす。自分の身体と心はユミを激しく求めている。結局、なるようにしかならないか、と和也は決断した。ドアを開けた先の玄関で、二人は靴を脱ぎスリッパに履き替えて客室に入る。客室内には過度の装飾もなく、清潔感が漂っておりシンプルで好印象だ。


「わあ! すごい大きいベッド! ほらっ!」

 ユミがぴょんとベッドの上に腰掛けて、和也に明るい笑顔を送ってくる。昨晩ユミは、『太ももを触られたことも、抱き締められたこともない』と話していた。そのため和也は、ユミには男性経験がない、と踏んでいたのだが、誘うようなユミの表情を見れば、予想は違ってたのかもしれない。ユミの男性経験があろうがなかろうが、どうでもいいことじゃないか。和也の欲望が何よりも上回った。


 和也はベッドに腰掛けているユミの右横に移動して、左腕で彼女を抱き寄せる。ユミは一瞬身体を固くしたように思えたが、力をすっと抜いて和也に身体を預けてきた。和也は、「ユミちゃん、綺麗だね」と優しく声を掛けて、ユミの唇をむさぼった。甘いようなユミの香りが、和也の鼻腔を刺激する。


 和也がユミの背中に両手を回して、強く抱き締めると、ユミも和也の背中におずおずと手を回してきた。強く抱擁して、和也は再度ユミにキスをする。今度は舌を差し入れて、激しくユミを貪ろうとしたが、違和感を感じた。体温を感じないので、調子が狂ってしまう。


 一瞬の戸惑いをユミに悟られないように、和也はユミの胸の膨らみに右手を伸ばす。ニットの上からユミの膨らみを、手のひらで優しく撫でる。すっぽりと包み込んで、重量感と柔らかさの反発を楽しむ。ユミは「ん……」と甘い言葉にならない声を出した。


 ユミの胸のボリュームは、肉感的だった智美と比べるまでもなくささやかだが、和也の欲望を満たすのに充分だ。和也はたっぷりと楽しんだあとに、ユミの着ているニットの裾から手を差し入れる。今度は、ブラの布地越しに楽しむのだ。一枚布が減ったため、反発感や重量感がよりダイレクトになった。ユミには体温がないため、滑らかな革製品のような触感で、和也は違和感を覚えるが、彼女に悟られてはいけない。


 和也の手のひらは、布地の下で主張しているユミの胸の先端を、本能に突き動かされるように、和也は右手の親指と人差し指で探る。二本指で刺激した。ユミは恍惚の表情で目をつぶっている。

 さらに和也は、未開拓ゾーンを求めた――布地越しではなく、直接楽しむために。和也は滑らかに右手を、ブラの内側に侵入させた。探索目標はこれまでの刺激で、充分に屹立きつりつしていたが、和也の親指と人差し指に挟まれるとさらに体積が増えた。


「んあ、ん、ん……」

 ユミは和也の愛撫に甘い声を出している。ユミの悦びの表情に満足して、和也はさらに愛玩する。ユミのあえぐ声も、和也の指の動作に比例してボリュームアップした。反応が嬉しくもあって、和也はユミにさらなる快感を与えようとしたが、彼女の身体が硬直してきているのに気付いた。


 初めての経験に慣れていないのだろう、と和也は推測する。男性経験のなさを主張したユミの言葉に嘘がなかった。和也はユミの正直さを嬉しく思う。慣れていけば問題ないだろう。和也はさらにユミの胸の愛撫を続ける。反対側も充分に。


 和也の行為に満足しているか、とユミの表情を窺ったときに、驚きで和也の右手の動作が停まった。ユミの頬を涙が流れ落ちている。これから起きるはずの体験への恐怖なのか、後悔なのか、はたまた夕方に大学へ行ったことが原因なのか。和也には判別できない。


「ユミちゃん、泣いてる?」

「え? 私が? あれあれ?」

 ユミは驚きの表情だ。自分が泣いていることに気づかなかったようだ。和也はそっとユミの背中に手を回して抱き締める。ユミは身体を固くして、小刻みに震えていた。安心させるため、和也は優しくユミの背中を撫でた。

「私、おかしいよね? 嬉しいはずなのに、なぜだか涙が止まらない」

 ユミは和也の胸に顔をうずめて、嗚咽おえつを漏らし始めた。

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