第12話

 ユミのセクシーな姿を思わず見てしまって、謝りはしたものの、和也は心のなかでよろこびを感じていた。智美と別れて以来和也は、友人の修一しゅういちからの合コンの誘いや、女性の紹介をするといった話は、全てかたくなに断っている。修一とは大学時代からの付き合いで、智美ともみとも彼の繋がりで交際し始めた経緯もあるので、『いい加減、トモのことは諦めろよ』と何度も言われているが、和也はどうしても気が乗らないのだ。


 離婚を一度経験しているだけに、和也も軽い気持ちで女性と付き合うつもりもない。また智美は、自他ともに認めるほどスタイルがよく肉感的で、事実和也も、彼女の身体に六年余も溺れていて、智美との復縁を期待する一因にもなっている。


 いってみれば禁欲生活を、約一年間続けていた和也にとって、色白のスレンダーな身体に、さりげなく胸が主張しているユミのボディラインは、刺激的で扇情的せんじょうてきだ。思わずユミの、Cカップブラの中身をぼんやりと想像していた。

「和也さん、着替えたよ。どう?」

 ユミの言葉にふと我に返り、和也は後部座席に目を向ける。カジュアルなファッションに身を包んで、はにかみを見せるユミがまぶしい。

「とっても素敵で似合ってる……。かわいいよ」

 和也は本心からユミを褒める。ユミは、「またまたあー」と軽く笑って、後部座席から降りて、助手席に乗り込んできた。


「さて、和也さん。買い物の第二弾、付き合っていただけますか?」

 おどけてペコリとお辞儀をするユミ。

「よし、行こう!」

「その前に変装だよ」とユミは、朝に和也が用意したキャップを着用した。

「変装?」

「さっき買った洋服一式を着て、買い物していると怪しいでしょ? この格好なら、普通の人はさほど洋服に意識を向けないから」

「ユミちゃん、冴えてる!」

 なるほど、と和也は納得する。

「それに気が抜けちゃって半透明になっても、ぱっと見は誤魔化せるかもしれないでしょ?」

 そこまで考えて帽子の用意を頼んだのか。和也はユミの思慮深さに驚いた。


 小洒落た格好になったユミと並んで、再度店内で買い物をする。今度はさきほどと違って、堂々としていられる。ユミも楽しそうな表情で、和也を引っ張り回す。

「お部屋着はこれかな。和也さんどう?」と、シャツワンピースを試着したり、「和也さんはろくな食事していないから、これを着て料理するの」などと言って、エプロンを何着も試したりと忙しい。

 それでも、ユミは予めどのような服を買うか決まっているようで、着々と買い物かごに商品が積まれていく。


「あとは……」

 と、和也が連れられた先は下着売り場。和也はまたもや、気後れしてしまったが、ユミが四セットの下着を見せてくる。

「このうち二つを買いたいんだけど、和也さんの好みで選んで」と、選択権が渡された。ユミに誘われているのだろうか、と和也は唸る。


「うーん。俺の好みで?」

「あ、ほら。男の人の好きなものを選びたいなって」

 和也は、目に焼き付いたユミの下着姿を思い出して身体が熱くなる。再びユミのあでやかな姿を見たら、自分を抑えることは無理かもな、と和也は思った。

「これとこれで」

 和也はユミの色白の身体を想像し、淡いブルーとピンクの下着を選んだ。ユミは、二セットの下着を買い物かごに入れて、「さっきと合わせて、税込一万四千六百八十八円。目標達成!」と、にっこり和也に微笑んできた。

「え? ずっと計算してたの?」

「うん! このぐらいなら簡単。三万円全部を使うわけにはいかないよ」

「ユミちゃん、えらい! すごい!」

 頭脳明晰めいせきでしっかり者のユミに、和也は舌を巻いた。


 一時間強の買い物の成果を抱えて、レンタカーに戻ったら、さすがに喉の渇きを覚えた。

「俺はアイスコーヒーを買ってくるよ。ユミちゃんはなにか飲む?」

「ありがとう。私は、お水がほしいかな」

 自動販売機を遠目に見つけたので、「ちょっと待ってて」と和也は急いだ。自販機で二人分のドリンクを買う。手に持ってユミの待つクルマに戻ろうとしたら、声をかけられた。

「もし、そこの若い方?」

 何事だろう、と声の方向を見れば、黒い法衣を身にまとい、笠を被った修行僧が、和也の顔を見ている。まったく、和也には心当たりがない。

「なにか?」


 初老の僧は、和也の顔を眼光鋭く一睨みすると、言い放った。

女子おなごの物のに魅入られているな。はらえば平穏。祓わねば何が起こるか、拙僧せっそうにも分からぬ」

「え、え? それってどういう……」

 修行僧は、和也の声がまったく聞こえていないかのように、きびすを返して、早足で歩き去ってしまった。

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