第4話
「おい、おい。そんな怨みで怨霊になっちゃうのかよ?」
和也は少女の表情から、害意はないと踏んで、ツッコミをいれる。
「そんな怨みっていうけど、おじさんに、信じてもらえなかったのが悲しかったし。すごく恥ずかしかったんだよ」と、膨れ面をしている少女に対し、
「ごめん。悪かったよ」と和也は即座に謝る。少女は謝罪に満足したようで、表情を和らげた。
「じゃあ……ちょっと許して、おじさんから『和也さん』に格上げしてあげるね」
「お。ありがとうな。って、なんで俺の名前を知ってる?」
和也は、自分の名前を呼んだ少女に驚いて尋ねる。超常現象の発生に動転したこともあって、名前は教えていないはずだ。
「はじめて男の人の部屋に入ったんだから、警戒するのは当然よ。
少女はリビングの入口にある、郵便物の収納ポケットを指差している。和也は、智美と別れたことを正確に指摘されて、心がちくりと痛んだ。宛名で見た名前はともかく、離婚していることなど、どうして分かったんだ?
「あ、うん。確かに俺は離婚しているけど、なんで分かった?」
「そうね。一人暮らしには不釣り合いな間取り。大き目のダイニングテーブルやダイニングボードにソファ。寝室に大きなベッドがあるのがちらっと見えた。それに、このマンションは分譲でしょ? ならば結婚を機に、将来に備えて買ったはず。どう? 正解でしょ?」
少女は誇らしげに自分の推理を披露した。和也は観察力と洞察力に舌を巻くと同時に、少し恐ろしさも覚える。
「なるほど。キミ、すごいな。いったい何者なんだ?」
「私? ただの怨霊だよ」さも当然、とばかりに少女は言い放つ。
――そうだ。怨霊だったんだ。
普通に話しているので全く実感が湧かないけれど、笑顔の一見清楚な美少女は怨霊なんだ。先ほどの怪現象が証明している。だが、俺の前に現れた目的は何だ? 和也は不審に思う。
「なんでただの怨霊さんが、俺の前に現れるんだ?」
「怨霊さん、って呼び方、かわいくないしイヤ」彼女が膨れている。少女が自ら怨霊と言っただろう。まったくもって怨霊少女のペースだな。和也は苦笑しながら尋ねる。
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「私はユミだから、和也さんの好きに呼べばいいよ」
「ユミさんでいいかい?」と、当たり
「好きに呼んでいいって言ったじゃないか。それに、今日あったばかりの他人だろ?」和也は反論する。
「実際に呼ばれてみたら、かわいくなかったの。それに……」と相変わらず、彼女は膨れている。
「分かった。じゃあ、ユミちゃんにするよ?」呆れながら、和也は同意を求める。
「オッケー。もう少し優しく愛情を込めて、呼んでくれると嬉しいけど」
ようやく少女は満足したようだが、和也は、彼女が言いかけた言葉が気になり尋ねる。
「それに……ってなんだい?」
「もう和也さんに、取り
少女は満面の笑みだ。アイドル顔負けのキュートな笑顔だけれど、取り憑くなどと不穏なフレーズを出すので、和也は焦ってしまう。
「と、取り憑く、ってどういう意味?」
「私の居場所がないので、ここに少し居させてほしいんだ」ぽつりと彼女がこぼす。和也は図らずも独身状態で、実害がなければ
「ユミちゃんの家はないの?」
「あるけど……ママは後妻だし、私のこと好きじゃないから嫌がる」
なるほど、彼女の母親は後妻なのか。再婚後に子供との関係が悪化するのはよくある話だ。そう和也は納得して、智美との間に子ができなくて良かった、と思った。
「そうか……お父さんは?」
「パパは優しいよ。でも私に驚いて、心臓が停まったら困るでしょ」
父親と良好な関係なら、救いはまだあったのだろう、と和也は思ったが、「俺の心臓は驚いて停まってもいいのかよ」少女の失礼な物言いに、和也はなんとか言い返す。
「和也さんの心臓は停まらなかったじゃない? 結果オーライでしょ」とあっさり言ってのける少女の笑顔を見て、和也は、彼女を追い出す気持ちが全くないのに気づいた。変わっているところも多いけれど、何より彼女と話していると楽しい。美少女の笑顔は見ているだけでも、幸せになれるし放っておけないぞ。
「ああ、幸いなことに俺の心臓は停まらなかったけどな」
「インコを泊めてあげた和也さんが、飼主を優遇しない訳ないでしょ?」
――もふもふインコのピーちゃん!
彼女が部屋に入り込んでから、超常現象の発生の続出もあり、和也はすっかり忘れていた。
「ああ、ピーちゃんは無事に戻ったの?」和也はピーちゃんの安否を尋ねる。
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