試し読み第3回:第一章


 一方―――東の果てにある原住民の集落。

 朝焼けと同時に、逆廻十六夜は目覚めた。

 昨夜の激戦で疲れ果てていた所為せいか、珍しく深い眠りについていたらしい。


(………驚天動地きょうてんどうち。久しぶりに時間の感覚がなくなるくらい眠りこけてたわ)


 ボリボリと頭を掻きながら身体を起こす。

 すると、十六夜の服が下に引っ張られた。

「っと………なんだ、アルビノのチビか」


 警護を含めて十六夜の隣で寝かしつけていた、白皮症アルビノの少女。

 クリシュナを名乗る何者かによって命を狙われていたこの少女は、粒子体研究の被験者の一人だった。


〝天の牡牛おうし〟事件のトリガーにもなったこの少女は、粒子体研究の権威を高めようとしていた外界の組織とそれを増長させようとしている箱庭のコミュニティによって命を狙われていた。しかも黒人系白皮症患者である彼女はかつて十六夜が破壊した組織の生き残りによって造られた命である可能性が高い。


 戸籍が存在しない少女だからこそ被験体として有用だったのだ。

 父もなく、母もなく、この世に身寄りが一人もいない少女。


 天涯孤独てんがいこどくの命として生を受け、くらい闇の底で生きてきた彼女は―――スヤスヤと健やかな寝息を立てつつ、十六夜の服をガッシリと掴んでいた。

 十六夜は苦笑いを浮かべつつその手を離す。


「まあ、元気なようで何よりだ。ちょいと外に用事があるから大人しく寝てな」

「………んぁ」


 手を離すと同時に、ガシ! と少女の手が十六夜の服を掴む。


「………てい」


 ガシガシ !!


「てい」


 ガシガシガシッ !!!


「OK、上着はくれてやる。暖かくして寝てやがれ」


 天丼てんどん芸をしている場合ではない。

 寝台の近くにあったシャツに着替えた十六夜は借り受けた宿舎の外に出る。


 白亜の建物群が徐々に朝日に照らされ始めた。戸口に飾られた魔除けの牛の仮面にもそれが反射し、集落と共に仮面たちも起きてくるような錯覚を覚える。

 庭に植えられた葡萄の木の陰では小鳥が囀り始めていた。

 原住民がかまどに火を入れ始めたのか、煮炊きをする香りも漂ってくる。

 近くの水場で頭から水を被った十六夜は、猫の様に頭を振って髪を掻き揚げた。


「まあ、長い夜だったからな。流石に疲れた。まだ体がだるい」


 身体の疲れを翌日に持ち越したのは三年ぶりだ。

 肩を回すと関節が気持ちのいい音を鳴らしてくれる。


クリシュナとオルフェウス、あとヘラクレスとも戦ったっけ。刺激のある相手は大歓迎だけど、こうも一度に相手をするとこたえるな)


 いずれも魔王に比肩ひけんする高名な英雄英傑たちだ。

 三年前までならコミュニティの総出で戦っていたほどの相手である。


(追い返しはしたけど、まだ手の内を全部見たわけじゃない。油断は出来ないか)


 特に〝ウロボロス〟は魔王連盟を名乗り、三年前は箱庭の至るところで暴れ回っていたコミュニティだ。魔王マクスウェルや混世こんせい魔王などが在籍し、箱庭の秩序を乱した彼らの目的は未だに判明していない。


 その〝ウロボロス〟の創設者を名乗った自称クリシュナとは今回の一件で決着を付けたい。

 だが彼ら程の英傑えいけつならば〝主催者権限ホストマスター〟を保有していた可能性がある。

 修羅神仏でさえ逃れることが出来ない最高位の強制執行権を破らずして、彼らを越えたとは言えないだろう。


 例えばヘラクレスは〝十戒じっかいの試練〟と呼ばれる強大な力を持った〝主催者権限〟を保有している筈である。ギフトゲームの代名詞に数えられるほど有名な試練なら、やはり一度は挑戦しておかねばならないだろう。


 そしてクリシュナに至っては、人類で初めて語られた救世主の一人だ。

 クリシュナ本人でないにしてもそれに近い恩恵を秘めている可能性は極めて高い。

 対抗するには十六夜も相応の切り札が必要だ。


 右手に癒着ゆちゃくして離れない手甲てっこう―――焔が血中粒子加速器Blood acceleratorと呼んでいた武器も、もう少し色々と試してみたい。


 身体の気怠けだるさが反動なのだとしたら、相応のリスクがある武器だと考えておくべきだ。


「っし、水被って目も覚めてきた。焔はまだ寝てるだろうし、噂のヘラクレスに少しぐらいちょっかいを出しに行っても、」

「コラコラ、止めておきなさい。相手は寝ていてもヘラクレスだぞ。半端に喧嘩を売るのはよした方がいい」


 宿舎から出てきた人影に、十六夜は悪戯心いたずらごころいさめられる。意外そうな顔をした十六夜は、宿舎から出てきた男性―――詩人のオルフェウスに振り返った。


「………へえ? 意外だな、オルフェウス。随分とヘラクレスに対して親しげじゃないか」

「おや、僕がヘラクレスと仲が良いと意外なのかい?」

「そりゃそうだろ。伝承通りの関係なら、ヘラクレスはアンタの弟を殺していることになっている。相応の確執かくしつがあるものと思うのが普通じゃないか?」


 今度はオルフェウスが意外そうな顔をした。

 十六夜が口にしているオルフェウスの弟殺しとは、ヘラクレスが幼い頃の話だ。

 ヘラクレスは幾人かの師を持っていたと伝えられているが、その一人がオルフェウスの弟だったと伝承には残っている。


「変なことを知ってるな、十六夜君は。………まあ、仲が悪かった時期があるのも確かだよ。僕が〝アルゴー船〟に乗ったのはヘラクレスを殺す為だったわけだし」

「そりゃ随分と殺伐さつばつとした航海だったんだな」

「ふふ、そうだね。だけどまあ、ディストピア戦争の際に、お互いに憎み合ってる場合じゃないと話し合ってね。今となってはヘラクレスと一番交友があるギリシャの英傑は僕になってしまったというわけさ」


 肩をすくめて苦笑いを浮かべるオルフェウス。

 憎み合っていたということは、ヘラクレスもオルフェウスをうとんでいたということだ。かのディストピア戦争は、憎しみ合っていた二人の間柄を変えてしまうほどに熾烈しれつだったと言うのだろうか。


「………まあ、ディストピア戦争で色々とあったってことか。永遠の憎しみなんてそうそうあるもんじゃないし」

「まあね。けど僕も変わったけど、それでもヘラクレスほどじゃない。弟子を取るなんて昔のアイツからは考えられなかったよ。アイツが弟子を取り始めたなんて聞いたら、彼の恩師たち全員が眼を剥きながら泡を吹き、決死の覚悟で止めに入ったことだろうさ」


 クスクスと笑いながらオルフェウスは十六夜の隣に立ち、水場で顔を洗い始める。

 十六夜は両腕を組みながら、難しい顔で空を見上げる。


「ヘラクレスの弟子ねえ。………それってもしかして、春日部の親父のことか?」

「なんだ、知ってたのか」


 春日部耀の父親、春日部孝明こうめい

 元〝ノーネーム〟の最強戦力とまで称された異邦人。

 何年も前から行方不明となっている人物だったのだが、ヘラクレスの弟子だという噂はチラホラと出回っている。


「そういえば今の〝ノーネーム〟はコウメイ君の娘が頭首についてるんだっけ? いやあ、月日が経つのは早いなあ! 母親似の可愛らしい子に育ってるかい?」

「どうだろうな。二年も会ってないとどんな成長をしてるか想像もつかねえもんだ。あの食いしん坊の事だから、意外に丸々とした体形になっている可能性が微粒子レベルで」


「………ふぅん? 出迎えにも来てくれないと思ったら、そんなこと話してたの?」


 ピタリと、懐かしい少女の声を聞いて会話を止めた。


 数日前に電話越しに聞いた声でもあったが、やはり生音声だと二年も時間が経ったのだと実感してしまった。


 しかし郷愁きょうしゅうを楽しむにしては随分と怒気が含まれている。

 二年間もほったらかしにしていたのだから仕方がないと言えばそうなのだが、もう少し感動の再会っぽい雰囲気を漂わせてくれてもいいのではないだろうか。


 苦笑いを浮かべた十六夜は、岩場の上から彼を見下ろしている少女へ挨拶した。


「………よう。二年ぶりだな、春日部。それとも〝ノーネーム〟の頭首様リーダーと呼んだ方がいいんですかね?」

「少しでもそう思ってるなら、もう少し報連相をちゃんとしてくれてもいいと思うな。まさか二年間で手紙が二通しか届かないなんて思わなかったよ」


 ムス、と腰に手を当てながら批難する春日部耀。

 彼女の苦言を無視した十六夜は腕を組み、マジマジと二年ぶりに会う同志を見る。


 十六夜が最後に会った時―――春日部耀はまだ十四歳だった。


 言動や行動も何処か幼さがあり、大型のネコ科動物に近い印象があった。

 しかし身長が僅かに伸びて身体つきも少し女性らしくなったせいか、以前よりも遥かにしっかりとした雰囲気がある。


 突然コミュニティの頭首になって色々と苦労したに違いない。

 一六歳になって肉体的にも精神的にも成長したのだろう。


 自由奔放だったあの春日部耀から、まさか報連相などという単語が飛び出てくるとは、二年前には想像もしていなかった。


「ふむ………中身と外見、共に成長は及第点といったところか」

「………? どういうこと?」

「コッチの話。春日部が想像を超えて立派になったもんだから、その変わり様に全米が涙したってだけの話だ。」


 肩を竦めてヤハハと笑う十六夜。

 その隣で半口を開きながら耀を見ていたオルフェウスが居た。

 パクパクと鯉の様を口を開閉させた彼は、驚嘆した様に耀へ近づいていく。


「お………驚いたな、コレは。何てことだ! 二千華にちかちゃんそっくりじゃないか!?」

「へ?」

「二千華?」

「コウメイ君のお嫁さんだよ! いやあ、あの時の赤子がこんなに大きくなるなんて、月日を感じるなあ! 元気にしてたかい!?」


 突然母親の名前を出された耀は、面食らったように言葉を失っていた。

 両手を持ってブンブンと振り回すオルフェウスを怪しげな瞳で見た耀は、いぶかるように問いかける。


「十六夜。この人、誰?」

「クロアと同じく元〝ノーネーム〟の創始者だってよ。お前の両親とも知り合いらしい」

「あ、そういうこと。初めまして、春日部耀です。両親がお世話になりました?」

「うーん、疑問形なのがオジサンは悲しい。けど許そう、コウメイ君たちの世話をしていたのは主にヘラクレスだったからね。―――ハハ、懐かしいな! 君をお母さんのお腹から取り上げたのも、あのヘラクレスなんだよ?」


 今度こそ二人はびっくらこいて視線を交わし合った。

 親しいとは聞いていたが、まさかそこまで親しいとは思っていなかった。つまり春日部耀の両親とヘラクレスは仲間というよりも、むしろ家族として親しい間柄だったということだ。耀は自分が覚えてない幼い頃の話を振られ、恥ずかしそうに頬を掻く。


「えっと………そういえば父さんの作品って、ギリシャ系の英雄を題材にしているのが多かったかもしれない」

「へえ? そういえば彫刻家なんだっけか?」

「うん。学生だった頃にヨーロッパのフィレンツェに特待生として留学していたって聞いてる。あの頃の作品って、ヘラクレスとかアスクレピオスばっかりなんだよね」

「あれれ、おかしいな。僕の彫像はなかったの? さっきはああ言ったけど、結構助けてあげた筈だよ?」

「うん、無かったと思います」


 即答され、今度は真面目に傷つくオルフェウス。詩人ではあるものの、彼とてギリシャ神話にその人ありとされてきた英傑だ。自身を称える彫像に興味がない筈が無い。

 耀はもう一度だけ思い出そうと腕を組んでみたが、やはり思い当たらないと判断してスルーする。


 十六夜はむしろ、耀の口ぶりを訝しんだ。


(………? フィレンツェ?)


 花の都フィレンツェと云えば、ヨーロッパよりもまずイタリアの名が先に挙がる筈だ。

 イタリアの首都であるローマですらなく、〝ヨーロッパのフィレンツェ〟などという呼び方は現地人も怒り狂う呼び方だろう。

 

 しかしその違和感を察したのは十六夜だけだったらしく、オルフェウスは顎を撫でながらしみじみと昔を振り返っている。


「懐かしいねえ。箱庭に召還されたコウメイ君とアーサー君の二人が居なければ、魔王ディストピアの打倒は成し得なかっただろう。あの二人は本当によく戦ってくれた」

「………? 父さんは、ディストピアと戦う為に召還されたの?」


 耀は不思議そうに首を傾げる。彼女の父が箱庭に召還された理由を聞くのは、此れが初めての事だった。

 オルフェウスはゆっくりと首を振り、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。


「いや、それはきっと違う。コウメイ君は事故で召還されただけの、運命の外側に居るべき人間の一人だった。………モルガンの遺書を読んだ限り、戴冠石リア・ファルに呼ばれたのはアーサー君だけだったのだろうな」


 最後の言葉は誰にも届かず、宙に浮いて消えていく。

 視線を上げたオルフェウスは十六夜と耀を交互に見て、鷹揚おうように頷いた。


「ディストピア戦争は多くの神々と多くの英傑が散っても尚、その終戦は決して最善のものでは無かった。アレはただ〝戦争を最速で終わらせる方法〟を模索した上での行動でしかない。その結末に後悔と悔いを感じる夜も少なくはなかった。………だけどこうして、我が一番弟子である金糸雀カナリアと、ヘラクレスが取り上げた赤子が揃い踏み、共に新しい時代の英雄として僕たちの偉業を越えて行ってくれるのなら。僕の苦悩や、金糸雀の後悔も、決して無意味なものでは無かったんだね」


 晴れやかな笑顔と、隠しきれない哀しみを潜ませた瞳。

 十六夜はその笑顔を見た瞬間に察した。


(………そうか。コイツも金糸雀の死を知っているんだな)


 己の持っていた詩人としての力を譲り渡すほどに、師として可愛がっていた弟子だ。その死に心を痛めていない筈もない。


 だが成長した耀の顔を見たオルフェウスは、何かを決意した様に表情を引き締める。


「………よし。僕も、そろそろ戻るとするよ」

「戻る?」

「〝ウロボロス〟にだよ。今の僕は彼らの従僕だからね。ちょっと逆らっちゃったけど、戻らないわけにはいかないんだ」


 耀は驚嘆し、十六夜を見た。彼女はまだ事情を何も知らないのだから当然だろう。〝ウロボロス〟と今まで戦ってきた〝ノーネーム〟にとって簡単には見過ごせない事態だ。

 十六夜も全容を把握しているわけでは無いが、持ち前の察しの良さで頷く。


「まあ、そうなるよな。アンタの立場なら仕方のない判断だ」

「ちょ、ちょっと、本当にいいの?」

「いいんだよ。オルフェウスが黙って従う理由なんてそんなに多くない。世界的に見ても屈指の愛妻家だからな。大方、嫁さんを人質に取られているとか、そういう理由だろ?」

「………。はは。それは秘密だ」


 苦笑いを浮かべて肩を竦めるオルフェウス。その笑顔で半ば肯定しているようなものだったが、何か理由を口に出来ない制約でもあるのかもしれない。


「それじゃあもう行くけど………君たちも気を付けなよ。特にクリシュナを名乗る謎の敵は非常に危険だ。必勝の策が無い限り、君たちから仕掛けるのはお勧めできない」

「忠告として受け取っておくよ。………まあ、あの野郎とは近いうちに決着を付けなきゃいけない。その時はアンタとも敵同士ってことでいいんだな?」


 挑戦的な十六夜の笑みを、オルフェウスも含み笑いで受け止める。


「勿論だ。先日は情けないところを見せてしまったけれど………僕も元詩人として、若人わこうどの挑戦を受けよう。愛で天空ソラを落とした男の底力、甘く見ないことだね」


 手を振りながら背を向け、森の中に姿を消していくオルフェウス。

 十六夜と共にその背中を見送った耀は、不安そうに問いかけた。


「………行かせて良かったの?」

「場合によっては拘束しようかとも思ってたけど、さっきの顔を見ただろ? アレは何か覚悟を決めた奴の顔だ。黙って見送ってやろうや」


 水場でもう一度だけ水を被り、十六夜は頭を振りながら煙の上がる方角を見る。


「それより飯にしよう。それとも先に食べたか?」

「まだだよ。食べようと思ったら十六夜の匂いがしたから、我慢してこっちにきたの」


 早く行こ、と袖を引っ張られる。

 食いしん坊の耀が食事よりも十六夜と再会することを優先したことにちょっとばかし感動してしまった。――が、袖が引き千切られかねない強さで引っ張られていることに気が付いて苦笑いを浮かべる。


 先ほどから香ってくる料理も気になっていたところだ。

 積もる話もあるのだし、まずは原住民の朝食に与ることにした。


「………おお……!!!」


 集落の中心地で並べられていた料理を見て、耀は感嘆の声を上げる。

 煮炊きから香っていたのはトマトだろうか。

 並べられたパンは硬そうだが、スープや葡萄酒ぶどうしゅに浸して食べるものなのだろう。

 茄子とじゃが芋のミートソースグラタンや、ズッキーニの揚げ団子、野菜のかまど焼きもたっぷりのオリーブオイルとトマトのソースがかけてあり、且つどの料理も香草や大蒜にんにくで香りづけしてあるので食べ応え十分だろう。


「ボリューム満点。アトランティス大陸はいい大陸だね」

「採点基準が偏り過ぎてる意見だが、とりあえず同意しといてやるよ」


 十六夜と耀はフォークを手に取って早速朝食を摂ることにした。

 並べられた皿を耀が目移りしている横で、十六夜はオリーブの実を手に取って齧る。


(………クレタ島のオリーブの実と同じものか。此れはもう確定だな)


 クレタ島のオリーブの樹は樹齢三〇〇〇年にも及ぶ長寿の樹がある。塩漬けで出されたオリーブの実はその樹とほぼ同じ種類に見えた。


(後はどのくらいの年月が経っているのかだな。食文化がそれなりに進んでいるのを鑑みるに、召喚されてから既に何百年か経っていると考えるべきだ)


 揚げ団子を一つ取って口に放り込む。耀はその間に皿を空にする。

 その時、十六夜に気が付いた女性の司祭補佐―――ララァと名乗った女性が調理場から歩み寄ってきた。


「気が付いたのか。昨夜は大変だったな」

「そりゃお互い様だ。太陽主権戦争の舞台なんかに選ばれなければ、集落が襲われることなんてなかっただろうによ」

「それは仕方のないことだ。何せアトランティス大陸は―――と、もうその手には乗らないぞ」


 フン、と鼻息を鳴らしてソッポを向くララァ司祭補佐。

 先日の失言を気にしていたのだろう。彼女たちアトランティス大陸の原住民はゲームの進行役を依頼されている為、有利になる情報を与えないように自分たちを戒めているのだ。


参加者プレイヤーは持て成す様にと白夜王びゃくやおう様から命を受けている。昨夜の悪漢を追い払ってくれた礼も兼ねているし、今日は好きなだけ食べてくれ」

「ホント? じゃあおかわり」


 ズイ! と差し出される空のお皿の山。

 長机を見ると、既に半分以上の料理が空になっていた。


「ば、馬鹿な 二〇人前はあったはずだぞ!?」

「はい。とても美味しかったです」

「あー………悪いけど、ジャンジャン持って来てやってくれ。相手は収穫祭の大食いチャンプだ。食糧庫を空にする気概で頼む」


 話している間もシャカシャカと皿を空にしていく耀。

 如何やら二年間の出来事については、十六夜が一方的に話すだけになりそうだ。

 オリーブの塩漬けを齧りながら十六夜は最近のことから順次話し始めた


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