第5話
何故か室内であるにも関わらず服を着たヴァイスを起こしていると、少しずつ記憶が戻ってきた。
――確か、森の魔法使いを倒して、それから…。ああ、そうだ。女王によく似た女に吹き飛ばされたんだ。
そんな思考をしながらヴァイスの体を揺する。普段から見ていて今までまったく気にしていなかったが、ヴァイスはなかなかいい体をしていた。少し欲情しそうになりながらもなんとか抑えてヴァイスを起こすと、ヴァイスは自分の服装を見て少しおどろいたような表情をしてからまたいつもの真顔に戻り、服を脱ぎ始めた。
「別に脱がなくていいから!」
服を着た状態のヴァイスを改めてみただけで欲情しそうになったウーゴが下着姿なんて耐えられるわけがない。ただ、ヴァイスは不思議そうな顔をしてそのまま脱いでしまった。
さりげなく目を背けながらキッチンに入り、適当にあったものでサンドウィッチを作り相変わらずぽけーっと下着姿で座っているヴァイスに振舞った。
いっぽうそのヴァイスはと言えば、無駄においしいサンドウィッチをほおばりながら、ヴァイスたちを攻撃してきた女について考えた。
あの女はとても女王に似ていた。魔法であれば、顔の交換などへでもないのだが、女王の顔は残っていた。ということは、女王の近しい人間ということが考えられる。
そういえば、今は女王の姉が政治を行っていると聞いた。そうとうな悪評のために妹であった今の女王を跡継ぎにしたということだ。その姉が女王を恨んでいても不思議ではないだろう。
――ということは、女王の姉が黒幕?
そうとなれば早速対策を講じねばなるまい。あの女が使っていた武器は魔力のこめられた杖であった。ということは、あの女本人に魔力は備わっていないということだろう。なんとか杖さえ取り上げてしまえば、簡単に勝つことができるであろう。
ヴァイスはウーゴが作ったサンドウィッチを完食すると、先ほど脱ぎ捨てたのとは違う服を着始めた。
「あれ、もう行くのか?」
「もう一度、あの部屋に、行く。」
ヴァイスがそう言ったのでウーゴも黙ってついていくことにした。
また昨日と同じように行くと、そこに水槽はなかった。影も形もない。消えているのだ。
二人は表に回り、正面から城の中へはいっていった。この国は昔から寝室や宝物庫など以外は出入り自由であった。ただし、武器などはすべて入り口で預ける形となる。
しかし、ヴァイスは杖を使わずとも魔法を使うことができた。武器などそもそも必要ないのである。
二人はそういったものをすべて預けると、王座のある部屋へとまっすぐ向かっていった。
しかし王座には誰も座っていなかった。大臣の話によると、朝から女王の姉は居なかったようである。
ヴァイスは意識を集中させ、何かを探るように目を瞑ったまま周りを見渡した。
ふっと目を開き王座の後ろへまわり、王座の裏にあったちょこっとした突起を押した。
すると大きな音がして、王座の後ろの床が開き、階段が現れた。
二人はおろおろする大臣を横目にゆっくりとその階段を降り始めた。
階段の下は、城の裏の隠し部屋とほぼ変わらなかった。そして、正面には、大きな水槽が置かれていた。水槽の中には、女王が入れられている。
「アッハハハハハ、性懲りもなくまたきよったか!」
如何にも悪者な声をあげながら、奥から女王の姉が姿を現した。
「お前ら、この私に勝てると思っ」
女の手に握られていた魔法の杖は、いつの間にかヴァイスの手の中にあった。
「な、なんでッ!」
ヴァイスはその魔法の杖を一瞬にしてへし折った。そうした瞬間、水槽の中に人魚として捉えられていたエマの下半身が人間のものに戻った。ヴァイスが指を立ててエマの姉を追い詰める間に、ウーゴは女王を助け出した。濡れた女王に自分の持っていた布をとりあえず手渡してみたものの、体を拭くにはあまりに小さいことに渡してから気付いた。しかしエマは明るい声でお礼をいうと、その布で体を拭き始めた。
一方エマの姉はヴァイスに指を突きつけられていた。
「ま、まって!許して!お願い!」
そう請うが、ヴァイスは指をどけない。そして、次の瞬間、指先が発光した。
発光したが、発光しただけであった。エマの姉はその光を見て気絶してしまった。エマの姉をウーゴに背負わせ、ヴァイスはエマの手を引いて階段をあがっていった。
ウーゴもヴァイスのあとを追う。
「ありがとう、本当にありがとう。このご恩は一生忘れません。」
エマはそう言って、大臣に大金の入った袋を二つもってこさせ、二人にひとつづつ手渡した。
ウーゴはその大金を生活のために、ヴァイスはその大金を魔法の研究のためにつかった。
ウーゴは大金を手に入れたにもかかわらず、目だった贅沢はせず、少しずつ働き、少しずつ使っていく、そういった生活を続けていた。
これといった特徴もない一介の少年が人魚にされた女王を助ける話。 七条ミル @Shichijo_Miru
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