人形
もし私が人形だったら、人間を羨むだろうか。心を持ち、色々なものに感動する人間を。
もちろん、羨むはずがない。なぜなら人は心を持つが故に悩み、悲しむ生き物だからだ。
それと比べて人形はどうだ。心が無いから悩みなんてあるはずがない。仮に心があっても、人々から愛されることを存在理由とする人形は常に無償の愛を注がれるのだから悲しむことも無いだろう。ここまで言えばわかるだろう、人形とは人を完全に超越した存在なのだ。
私はクマのぬいぐるみだ。おもちゃ屋のショーケースの中から人々につぶらな瞳を向けていた所、とある少女に買われた。少女の名はチカちゃんと言う。
おもちゃ屋で手に取られたあの時から私とチカちゃんは絆を深めてきた。嬉しいことがあれば共に喜びあい、悲しいことがあれば励まし合う...もっとも、ぬいぐるみである私の声が彼女に届くはずなどないのだが。でも私はそれでも満足だった。
チカちゃんが私を抱きしめる度、彼女が私に微笑みかける度に私はこう思ったからだ。ああ、人形に生まれてよかった、と。
「違うわ。」誰かの声が聞こえた。
声のする方へ目を向けると、そこにはドレスをきた可愛らしい女の子の人形があった。人形は、その不気味とも言える大きな瞳に私を映して、こう言った。
「あなたは人形としての生涯に満足してない。だって今までもあなたは人形だったもの。見えない糸に操られた、意思がない哀れなマリオネット、それがあなたでしょう?」人形がそう言った瞬間、部屋のドアが開き、チカちゃんが入ってきた。そして救いを求める私には目もくれず人形の方へと向かっていった。
どうして!チカちゃん!必死に呼びかけても人形である私の声は届かない。子供の興味とは刹那的なもの。飽きられてしまった私は数日後には捨てられてしまった。
焼却炉で火に焼かれながら、私は後悔した。
なぜ、人形なんかに生まれてしまったんだろう。
もしもしピエロ @kanmimask345
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