もしもしピエロ

@kanmimask345

 もし私が蝿だったら、人間を羨むだろうか。味覚を持ち、様々な食べ物を味わえる人間を。


 いや、羨むはずがない。なぜなら人はたかが食べ物のために自身の財産を捨てねばならないからだ。

 それと比べて蝿はどうだ。彼らの食事は道端に転がっている犬の糞で十分だ。それが彼らの無二のご馳走なのだ。

 蝿は飢えなど知らぬ。味など知らぬ。しかしそれ故に蝿は人間より上にいる。奴らが身を削ってまで手に入れる味や栄養以上のものを蝿である私は容易に手にすることが出来る。

 

 プンプン音を立てて空を飛んでいると、犬と散歩している少年が、犬のした糞を放置していくのを見かけた。

 しめた!ご馳走にありつけたぞ!

喜びのあまり、出来立てほやほやの犬糞の周りをグルグル旋回していると、同じくご馳走の香りに引き寄せられた同胞たちが集まってきた。

 蝿が群がり、羽音を騒々しく鳴らす光景は、パラダイスのようだった。

 目の前には極上の飯、周りには仲間達。やはり蝿は人間より素晴らしい、そう私は確信したのだった...

 

 「違うね。」何者かの声がした。

誰だ?あたりを見まわすと、先ほどの少年と犬が立ち止まってこちらを見ていた。その視線は真っ直ぐ私のことを捉えている。

「お前はここに逃げてきただけだ。その暮らしが一番と思っているんじゃない。そう思いたいだけだ。この負け犬!」彼はこちらを指差し、そう言った。

 なんだとクソガキ!と怒りに身を任せ、私は少年めがけて一直線に飛翔する。

 しかし少年はどこからかハエたたき」を取り出し、それで私をスパンとはたきおとした。

 なんとあっけない最期だろうか。あまりに儚い虫の一生を終え、私は後悔した。


 なぜ、蝿なんかに生まれてしまったんだろう。

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