千人掌

安良巻祐介

 

 部屋に置いていたサボテンの鉢植えからいつの間にか豆粒のようなお地蔵さまの頭がいくつも生えて、ちょっとした奇景を作っている。離れて見るぶんにはともかくもありがたいような気もするが、近寄ってよく見ればこれはやはり地獄だ。地蔵の顔がみな無表情なのがかえって苦界を感じさせる。なぜこんなことになったのやら、平々凡々たる日々を流し暮らしてきた身にわかるわけもない。ただもう、なるべく鉢植えを見ないですむように、びくびくと家の中を動き回るばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千人掌 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ