第17話 私の名前は、大王イカ

~前回までのあらすじ〜


ただのスルメイカだと思っていた矢先に、ところがどっこい水を得た瞬間にまさかの大王イカに大変身してこれまたビックリ!!まさかのレアキャラだったけど、萌え系美少女を目指している私にとっては、生臭い使い魔だなんてまっぴらごめーん!!…ってことで本日もはじまり、はじまりぃ〜!!



◇◇◇



「…これって一体どういう事…?」


突如として自分の目の前へと現れた巨大なイカの姿を見て、マルルは思わず驚きの声を上げた。


パンドラの方も、この巨大イカには見覚えがあったようで、先程までの余裕そうな表情は既に消え失せてしまっている。


「…ジンちゃん、ソレ…処分したんじゃなかったの?」


おばあちゃんの事を睨みつけながら、思わずそう声を漏らすパンドラ。


その表情からは、すでに溢れんばかりの憎悪が滲み出てしまっていた。


それもそのはず。この巨大大王イカこそ、おばあちゃんが現役の魔法少女時代に従えていた使い魔であり、おばあちゃんの側で共に戦っていたパンドラであるからこそ、その威力や能力を十分に理解しているからだ。


「…すまんな、パンドラ。正義の味方には、いつの時代も最強の従者というものがつきまとってくるもんなのじゃよ。」


そういって不敵に笑うおばあちゃん。そのシワッシワで邪悪な笑顔は、もはやどちらが本当の悪役か分からなくなってしまうほどに不気味なものであった。


「…いくら旧魔法少女のS級使い魔といったって、世代が変われば雑魚は雑魚。そのイカもろとも私が責任を持って消し去ってあげるわっ!!」


パンドラがそう言って右手を高く掲げると、パンドラの手掌からは大きなドス黒い空間の歪みが生じた。


その瞬間…


バシンッッ!!


巨大大王イカの長い触手が、鋭い速さでパンドラの手を見事になぎ払った!


思わず払われた右手を庇いながらその場へとうずくまるパンドラ。


その衝撃によって右手に掲げていた魔法もすでに大王イカに払われた衝撃によって消し去られている。


パンドラの魔法を封じた事で気を良くした巨大イカは、その10本の手足を巧みに操ると、パンドラの周りにいるデス・ピザエール達を次々となぎ倒していった。


…これは…イケる…!!


そう確信したマルルは、こっそりとその巨大イカの背後へと移動すると、時折「ほっ!」だとか、「はぁ!」などといった奇妙な掛け声をあげながら、巨大イカの動きに合わせてまるでカンフーみたいな動きを繰り返していた。


「…何をしているの?マルルちゃん…」


マルルが繰り出しているその不思議な踊りを目の当たりにしたバニラは、怪訝そうな表情でそう尋ねてきた。


「…いや…大王イカ後ろで巧みに動いていれば、周りのみんなから見れば私がこの巨大イカを操ってアイツらを攻撃しているように見えるんじゃないかな〜…って。」


「…なんて姑息なの!?マルルちゃんっっ!!」


そう言ってマルルのあまりの卑怯さに思わず身震いまでしはじめるバニラ。


マルルが時折見せてくるこの卑怯さや姑息さは、きっとババア譲りの隔世遺伝に違いない。


…血は争えない。


マルルには健全な主人公として生きていくには、何とも不必要な歪みきった思考とDNAの呪縛が渦巻いていたのであった。


そんなマルルとバニラのやり取りをよそに、大王イカは手際よく次々とデス・ピザエール達をはたき落としていく。


「いいぞ〜!大王イカ!そのまま全員ぶっ倒して、エンディングまでつっ走れ〜!!」


そう言って、相変わらず大王イカの後ろに隠れながら、ガッツポーズで叫ぶマルル。


…もはやこちらも完全に悪役のノリである。


「…コラー!マルル!イカにばっかり戦わせんと、ちゃんと自分で戦わんか!!…仕方がない!大王イカ!変身じゃ!!」


あまりにも卑怯なマルルの様子に業を煮やしたおばあちゃんは、そう言って大王イカに命令を下した。


するとおばあちゃんのその声を聞きつけた大王イカは、くるりとマルルの方に向きなおすと、その10本の触手を一斉にマルルの方へと伸ばしはじめ、そしてそのままマルルの全身を包み込んだ!


たった数秒の間、マルルを包み込んだ大王イカだったが、彼が再びその場にマルルを解き放つと―――…


ぽんっっ


なんとマルルはすっかり魔法少女への変身を遂げていたのだった。


「…早い…」


既に魔法少女の衣装へと変わってしまっている自分の両手を眺めながら、マルルは小さく驚きの声をあげていた。


さすが現役時代は常に伝説魔法少女の補佐をしていたというだけあって、その手際の良さは超一流である。


「…マルルちゃん!せっかく魔法少女に変身出来たなら、このまま一気に攻撃しちゃいましょ!!」


そう言ってバニラがこちらに向かってダッシュをかけてきた。当のバニラもアイスに手伝ってもらったようで、すでに魔法少女への変身を済ませている。


「…うん!」


バニラのその言葉に、マルルが手にしたステッキに祈りを込めると、ステッキの中央に嵌められた宝石の中から、小さなパイナップルが、コロンと3つこぼれ落ちてきた。


そのパイナップル達はどれも青く、まだまだ硬い上、糖度など微塵も感じられないような代物だった。


それでもマルルは、その3つのパイナップルを拾い上げると、パンドラ達に向かってまるで手榴弾かのごとく投げつけはじめた。


ばふんっ!ばふんっ!


放り投げられたパイナップル達は、デス・ピザエールや建物に当たって弾け、まるで催涙弾かのように煙幕をあげながら、みるみる内にパンドラ達を煙の中へと包み込んでいった。


「…くっ!こんなモノ…っ!」


パンドラが身に纏っていたマントを翻し、その煙幕から顔を出そうとしたその瞬間――…


「モア・クリスタル!!」


力強く地面を蹴り、宙へと高く飛びあがったバニラが、建物ごとパンドラやデス・ピザエール達をそのまま氷漬けにした。


魔法少女へと変身したバニラの氷の威力は絶大である。


「皆の者!一時期に奴らの動きを止めたとて、多勢に無勢である今の状態は一向に変わらん!!ここはひとまず一旦退却をして体勢を立て直すのじゃ!」


おばあちゃんのその号令に、マルル達は一斉にその場を駆け出したのだった。



「…で、これからどうするの?おばあちゃん。」


パンドラの元からひとしきり逃げ終えて、全員で身を低くしながら草むらへと隠れている最中、マルルがおばあちゃんに向かってそう声をかけた。


「…この世界にはまだまだ沢山の魔法少女が点在しているはずじゃからの…とりあえずその魔法少女達を引き入れて仲間を増やす。あとは…」


「…あとは?」


おばあちゃんの語尾に残されたその言葉に、思わずマルルとバニラの声がハモる。


「…あとは、パンドラに家を取られてしまったからの。とりあえず次の魔法少女の家にご厄介にならねばならぬ。」


そう言って人差し指を立てながら、笑顔で答えるおばあちゃん。


…このババア、次の魔法少女の家にちゃっかり居候とかかます気だ――――――!!



~次回、魔法少女 まじかる・ぱいんっっ!



「間借りいたします、魔法少女。」



でお会いいたしましょう!


時代が変われど、まじかる・まじかるンっっ

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魔法少女 まじかる・ぱいんっ! むむ山むむスけ @mumuiro0222

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