軍師の朱炎

@adgjmptw88

エピローグ 次に繋ぐ

朝日が立ち昇る朝、スイナは寝床から立ち上がり、大きく深呼吸をした。部屋と呼べるほど大きくない倉庫部屋、扉を開けた先の窓の縁を掴み、必死に爪先立ちで外を覗く。するとそこには、ギラリと輝く太陽とは別に、粛々と行進している軍の姿があった。


"出撃"


それは、たった二文字の漢字でありながらも兵士達にとっては最も重たい言葉だ。

自分が危険に晒される恐怖、

命運を託される恐怖、

家族に会えない恐怖、

様々な恐怖が絶え間なく、襲ってくる。

その恐怖を背負った者たちが、前へ前へ行進しているのだ。一人の軍師に全てを託して...

スイナはその光景を見て、憧れと尊敬心を抱いた。それは兵士達に向けられるものではなく一人の軍師、つまりは"自分の母"に向けられたものだった。スイナの母は数千人もの兵の先頭に立ち、馬を走らせている。その怖めず臆せず堂々としている様子から、

"龍の尾"という威名を持っている。

他にも理由はあるらしいのだが...

そんな母に対し、いつもは心配など無用などだが、今のスイナは混沌としている。昨日の会話が脳裏に浮かぶ...


夜のふけのこと、スイナは寝に落ちる前に母と漫談していた。

「スイナ、私達には右頬に黒の竜巻のような

ものが烙印されてるでしょう?」

「今頃どうしたの?お母さん、

この痕は私たちが相手国の捕虜の時に押されたものでしょ?」

「...そうね、これは南の国 ホウスンの襲撃によって捕虜にされた"私"が受けた罰...

当時 私はあなたを出産したばかりで戦に参加出来ず別荘に隠れていた。ただ自国の民が戦っているのを思うと 我慢できなくて飛び出してしまった。それが敵の思う壺 敵は見張りをつけていたの...

それで捕まって...

本当ごめんなさいね...」

母は涙ながらにそう言った、何度も何度もそう言った。だがスイナは気にしていなかった。一番辛かったのは母だと幼いが分かっていたからだ。捕虜の時は精神をズタズタにされ、本国に助けられ戻った時は罵倒をくらい周りから冷たい目で見られ、部屋は物置き部屋と変わらなかった と母の一番の手下 ラシウスが何度もスイナに語りかけていたからだ。そう、覚えさせるかのように...

それにスイナ自身 幼すぎて自分個人では覚えていなかった。

「大丈夫だよ 母さん

私は覚えてもないから!」

「覚えていないのね。それは良かった...」

母は安堵した、心の奥から安堵していた。

スイナは泣き噦る母を見ると、たまらず腰をすすった。

「あぁありがとう スイナ。」

だが、それと同時に疑問に思っていた。

いつもは冷静で感情的にならないはずの母がこうも素をみせるだろうか

母はなぜこんな話を...

と幼いスイナは感じていた。


「あぁこれで...決心がついたわ。」


...その身に余る危険信号を

そして、スイナにとってそれはそれは

衝撃的な事件が起きる事を一部を除いて誰も知らない。

そうして少女は朝を迎えたのである





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