寄り添い踊る

夢を見てから9日目、シンカはナウラと里の外れの木立の中、ヴィダードと歌を歌った場所に向かおうとしていた。


2人きりで1日を過ごすにあたり、ナウラはシンカと共に踊る事を願った。


イーヴァルンの民は歌を、エンディラの民は踊りを伴侶と楽しむ。


人間と異なる文化にはこの後に及んで尚、興味を抱かせられる。


ヴィダードと同じ様に、ナウラも彼女等の民族衣装を身に纏っていた。


普段は人に身体を見られる事を嫌い、肌は見せず、体型が隠れる衣類を纏うナウラであるが、今日は特別な日なのか臍下から肋骨まで腹を露出させ、胸も乳房を覆うだけで喉元から深い谷間まで胸元は剥き出しで、脚は大きな切れ目の入った腰布を纏い健康的な太腿が惜しげもなく晒されていた。


輝く白髪は丁寧に編み込まれ、頭には小さな宝石を連ねた頭飾りをつけていた。


「…凄いな」


「卑猥な視線を向けないでください。妊娠します」


鍛えられたしなやかな筋肉の上に薄らと乗った脂肪が彼女の健康的な肉体を形作っている。


薄ら割れた腹筋に手を伸ばすとはたき落とされた。


「俺が作った腹筋だぞ」


「私の身体です。勝手に触らないでください。減ります」


「ふむ。俺の見立てでは出会ってからお前の体重は経年と共に増加傾向にある筈だがる」


「おや、知らないのですか?筋肉は脂肪より重量があるのです。質量の増加は弛まぬ努力の証」


やれやれと無表情で肩を竦めた。


「つまり増えてるではないか。……さ、行こうか」


無表情ながらも不貞腐れた雰囲気を醸し出すナウラの腰をそっと押した。


薄着で体が冷えそうなので毛皮の外套を羽織らせる。


ナウラはシンカの目をじっと見つめて狩幡で買い与えたふかふかの毛皮帽子を自分で被った。


傍目にはそれだけに見えるだろう。


だがシンカにはナウラが楽しそうに微笑み、昔買ってもらった帽子を見せびらかしている様に見えた。


いや、見えたではない。ナウラは正しくそうしていた。

微弱ながらもシンカに向けて感情を発露していた。


思わず強く抱き締めたいという衝動が沸き起こり、シンカはそれを捩じ伏せて堪えた。


敢えて異変を感じ取らせる様な行動は避けるべきだと考えたからだ。


自分が霧の森の王を倒す事に不安を感じていると分かればナウラは付いて来ると言うだろう。


あの夢が御告げの一種なのだとすればクウハンは討伐を失敗するという事だ。

クウハンが駄目なら残るのはシンカだけだ。


ナウラではクウハンには及ばない。

あの夢が御告げの一種なのだとすれば、それはシンカ1人で行けという意味だ。


誰かを連れて行けば後悔する結果に繋がるだろう。


「シンカ。私は付いて行ってはいけないのですか?」


案の定ナウラはそう尋ねて来た。


「ああ。クウハンもいる。討伐部隊が数十名いるのだ。問題は無いだろう。…本当は秋口に一緒に行くべきだったが、リンファの出産が不安でな。無事生まれたから応援に向かおうと思う」


シンカは遠くの山並みを眺めながら口にした。


「……どうして、嘘を吐くのですか?…何が嘘なのですか?」


本当に優秀に育った。

殺そうと意識した身体の反応をナウラは読み取ったのだ。


賢く、優秀な大切な弟子。美しく、強かな大切な妻。


「嘘?…どこがだ。全て事実だろう」


「……確かに、そう…ですね。ですが…何故…?確かに…」


「リンファも身体を大切にしないとならん時期だ。子も幼い。カヤテは妊娠中で俺の帰還時期によっては出産に間に合わないだろう。残りはヴィーとユタだ。…………お前しかいないっ!」


「……仕方がありませんね。土産に素晴らしい酒を所望します。肴には味の濃い肉系の何かを」


「お前の好みは塩辛すぎてヴィーが食えんのが難点だ。焦げ好きだし身体に悪い。改めるべきだ」


「甘い物もたくさん食べて中和していますが」


「出来るか阿保。分かっていて茶化すな」


「まさに望んでいた返答。しかし意外性も捻りもなく物足りない気分ですね」


「喧しい。まあ今日を楽しみに興奮しているのは初心な少女の様で愛らしいぞ」


「……っ、私の心を読むのを辞めてください。コブシの民話にある知能を得た魍魎、悟りの様です」


「確かに、小娘からすれば俺は魍魎の様なものか。さもありなん」


「っ!?私が、小娘…?」


ナウラはシンカとの舌戦に負けてほんの僅かに眉を寄せる。


悔しいらしい。2人連れ立って崖を下りながらも会話は途切れない。


「シンカ。この際ですから有り体に聞いてしまいますが、私はどうすれば貴方に勝てますか?口論の話です」


「俺とお前は夫婦だが、その前段階は師弟であったし、結ばれる前は俺を好き過ぎるお前が追いかける立場で、謂わば恋愛弱者だった。覆す事は到底難しいだろうな」


「な、何という事を…私が恋愛弱者…。街を歩けば日に10は男に声を掛けられる、この私が…」


「碌でも無い男に掛けられた声の数を数えられてもなぁ。これだから処女を拗らせて男の寝込みを襲う女は」


「こ、このっ!?言わせておけば。少しばかり自分が強くて、経が濃くて多いからと、胡座をかきすぎなのでは?その様にふんぞり返ってばかりの男は老後妻に捨てられると巷では言います。少しはこの若く知的な私に若いうちから諂って置かなければとは考えないのですか?」


「…ふん?ナウラは俺が歳をとったら俺を捨ててしまうのか。悲しいなぁ」


「一言もそんな事は言っていません」


即答であった。

再び悔しそうに僅かに口角を下げた。


側からはあまりの無表情に怒り狂う半瞬前の静謐さに感じられただろう。


「シンカ。貴方はこれから倒しに行く魍魎をなんだと思っていますか?」


階段を降り切るとナウラはそう尋ねた。


「うん。まず一つの判断材料となるのが御告げにある、赤き夜這い星が東の長い縦山に落ちました。この内容の中、霧に育てられし罔象が其れを喰らいて更に悪しきものへと姿を変えます、という一文中にある其れを喰らいてだ」


「夜這い星、箒星ですね。私達が第一次ヴィティア・ベルガナ戦線に巻き込まれた際に東に流れて行きましたね」


「うん。墜落した箒星を喰う。つまり石や金属を喰らう魍魎となればかなり絞られる。石を飲み込んで胃石とする魍魎はそれなりに存在する。鰐や海豹、駝鳥等だ。だが今回はそういう意味では無いはずだ。棘背熊、岩面蜥蜴、岩呑龍、山下蚯蚓、赤斑蜈蚣、朱脚馬陸、大岩壁蝨、岩食み鬼。凶暴なので言うとそのあたりか」


「山下蚯蚓が王種だった場合、倒せる物なのですか?」


「どう言う変化を起こすか分からんからなんとも言えないが、通常の個体であれば体表に塩を大量にぶつけたり、塩や毒を摂取させれば容易い」


「成る程。他の魍魎も通常個体であれば無難に倒せると考えて宜しいですか?」


「ああ。若干面倒なのが岩食み鬼、ジャバールの民が3000年前に変質してしまった鬼の一種だが、あれ等は白山脈には生息していない。しかし熱と氷による波状攻撃で身体を砕く事が出来るし、他にも倒す手段はそれなりにある。何にせよ、実態を把握出来ん内は何とも言えんな」


「気を付けてください。くれぐれも。貴方には150まで生きてもらう予定なのですから」


「辛いわ。そこまで行ったら死なせてくれ」


「ふふ。今から楽しみです。寝たきりになったシンカをまだ若く美しい私が介護するのです。下の世話までされる恥を今から心待ちにするといいです」


「糞尿を漏らす様になる前に森で朽ち果てたい」


「許しません。…ですから今のうちに私に勝てる事を満喫するべきなのでしょうね。おや、そう思うと口論で負ける事も無駄な足掻きの様に見えて可愛らしい物です」


ナウラは上機嫌に笑った。表情には微々たる変化しかなかったが。


林に入り木立を抜ける。

ヴィダードと来た時の足跡を辿り、硬い雪を踏みしめて里の外れを目指した。

林を抜けて視界が開ける。

今日も空は晴れ渡り、北の海岸線を見渡せた。


「…私が船で攫われた時、あの辺りを通ったのでしょうか?」


ナウラは目を細めて北西を指差した。


「そうだろうな」


「あれから長い時間が経ちました。その間はずっと貴方と一緒だったのですね」


「うん」


「これからも、これまで以上に私達は一緒です。まだ行った事のない土地に連れて行ってください」


「大陸の西と東を網羅してみるか?」


「それは必須です。美しい景色も、古の遺跡も、全てです」


ナウラがそっとシンカに寄り添った。

人前ではあまり見せない甘えた姿だ。


シンカに横から抱きつき頬に頬を擦り付ける。

柔らかい晴れた日の豊かな土の匂いが香る。


とても深い深緑の瞳がシンカを見つめていた。

ナウラの額に口付けすると甘えて目を閉じて顎を上げた。

接吻の催促だ。彼女の集めの唇に接吻した。自分の唇にナウラの柔らかさを感じる。


ナウラは目を開けるとシンカの頬を手で挟み、額に頬に何度も口付けをした。


「愛してます」


何度もそう小さく口にして幾度も口付けを繰り返す。

シンカはその間ナウラの腰を抱き、させるがままにしていた。


暫くして満足したのかナウラは顔を離した。


「貴方との思い出は全て此処に残っています」


外套の上からナウラは自分の胸に手を当てた。


「俺も覚えている。…思い出話か。歳を取ったな、俺も」


「…あの海岸線が続く先で私は貴方と出会ったのですね」


ガルクルトの北に伸びる海岸線ををナウラは指す。

海岸の先はアゾルト公国へと続き、その先にはランジュー王国がある。


半島最北の岬にはランジューの王都があり、その外れでシンカは傷付いたナウラを拾った。


「これ迄の旅で何が印象に残っている?」


シンカは尋ねる。自分なら何か、考えながら。


「…遺跡は勿論ですが、特に印象に残っているのは砂漠の旅です。砂嵐が迫る中、シンカは私に手を伸ばして手を繋いでやると言いました」


「うん。覚えている。お前が余りにも不安そうな顔をするのでな」


その不安そうな顔も普通の人間には推し量る事は出来ないのだろう。


「あの時の私は既に貴方に導かれていました。導かれ合う事が出来ず、苦しんでいました。差し伸ばされた手にどれ程救われたか、貴方には分からないでしょうね。これは嫌味ではありませんよ」


「砂嵐の中でお前は必死に俺の手に縋り付いていたな」


「ええ。愛しているのですから当然です。何時でも私は貴方に触れていたいのです。……シンカは?私との旅で何が印象に残っていますか?」


シンカは顎に触れながら考える。


「…やはり砂漠の宿でお前に謀られた翌朝は強く印象に残っているな。…お前の苦しみを分かってやれていなかった事を後悔した。苦しめたいなどと思ってはいなかった。受け入れる為に時間が必要だったのだ」


恐らくそれはリンファに傷付けられたが故の遅さも有ったのだろう。


「今となってはいい思い出です。待たされた分、結ばれた時の幸福は大きかった。私は今幸せです。それで十分です」


ナウラはシンカの背に手を回し抱き締めた。

シンカはナウラの頭を抱いて目を閉じた。


暫く抱き合い、どちらとも無く身体を離すと出掛けた本来の目的に移る。

ナウラは外套を脱ぎ汚れない様畳んで岩の上に置く。


豊満な肢体が惜しげもなく晒された。

ヴィダードの薄い肉付きの身体も芸術品の様な美しさがあるが、ナウラの正反対の身体も美しく感じられる。


乳や尻の肉付きも、鍛えられている事がわかる腹や手足の薄らとした筋肉のせいか下品ではなく彼女が健康である事の証明の様に感じられた。


褐色の滑らかな肌に日差しが照りつけて艶かしく照り返していた。


帽子を脱ぎ、髪留めを外して広がった白髪は周囲に残る雪と同じ様に朝日に輝いた。


シンカは六弦琴の音を合わせ、ナウラに向き合った。

目を見つめる。

始まりを確認する必要はない。

目を合わせてこうしたいと思えば彼女には伝わる。

彼女がこうしたいと思えばシンカにも伝わる。


心の底に隠しさえしなければ。


シンカが思うのは一つだ。

守りたい。

それが全てだ。死にたくない。だが命を賭して守れるなら、シンカにとってその犠牲は考慮の余地もない程に軽いものだった。


ナウラが両腕をしゃなりと構える。シンカも弦に指を添える。


始めの曲は里に帰って直ぐに父と母たちが開いてくれた宴の時にヴィダードが歌ったイーヴァルンの悲恋歌。

異国情緒溢れる、何処か物悲しい一曲。


シンカは繊細に旋律を演じ始める。

曲に合わせてナウラは優雅に踊り始めた。

露出の多い服装だが、嫋やかで優雅な舞にシンカは魅了される。


彼女が回転する度に広がった白髪が陽光に煌めき光を放つ。

脚の動き、腰のうねり、指の先端まで気持ちが込められている様にシンカには見えた。


物静かな舞ではあっても、そこに込められた想いの熱さでシンカは圧倒された。


それはシンカに捧げられた想いだった。


顔には出なくとも、これ程の思いをナウラは心の内に留めているのだ。それが動きの一つ一つに現れ感じられるのだった。


シンカは想いに当てられ自身の演奏にも熱が入っている事に気付けなかった。


一曲を漸く奏で終わる。

ナウラもゆるりと動きを止め、2人暫しの余韻に浸った。


「私の気持ちが伝わりましたか?」


僅かに息を荒立てながらナウラは僅かに口角を上げて微笑み尋ねた。


「うん。なにか分からんが伝わってきた。因みにどんな想いが込められていたのだ?」


シンカが尋ねるとナウラは分かりにくいが顔を赤らめ足元に視線を移した。


「……貴方を全て受け入れます。そう思って踊りました」


答えにシンカは朗らかに笑った。


「そんな感じがしたな。…凄いな。エンディラの民は皆踊りが好きなのか?」


「そもそもこれ迄各地を旅して色々な国、色々な地域に趣きましたが、踊りを好まない国はありませんでした。エンディラもそうです。ですが、あそこは踊る事しか娯楽の無い場所です」


シンカの事は恥ずかしがらずに好きだと言うくせに、踊る事が好きだというのが恥ずかしいのか、ナウラはそんな風に濁した。


水筒から茶を飲むとナウラは再び姿勢を作りシンカを見つめた。


「今度はどんな気持ちが込められていたか、当てて下さい。次は小走り程の速さで明るい曲をお願いします」


2曲目にシンカが選んだのはイーヴァルンの祈りの歌であった。

ヴィダードが婚姻の儀式を行う際に歌った曲だ。


岩に腰掛け、足で音を鳴らす小さな太鼓を置いて器具に足を掛ける。


異国情緒溢れる曲を少し速度を上げて奏で始める。

ナウラは力強く動き始めた。回転し、頭を下ろし、上げる時には美しい髪が振り上げられる。


足を素早く動かし交差させ、また回転して腰を振り、シンカに手を差し伸ばす。


頬を撫で背を向けて背筋をくねらせシンカを振り返る。

頭を振り回して再び髪を振り回す。


シンカはナウラに当てられて演奏速度が早まらない様注意していた。


踊りから感じるあまりの感情の熱量に心中で無性に興奮していた。


演奏が激しくなる部分でナウラはシンカを見つめつつ腰をくねらせ、激しく振り、勢い良く回り健康的な脚を見せつける様に動かし激しく地を踏む。


シンカは祈りの歌を自身で編曲し明るくて勢いのある曲に仕立てていたが、初めての曲にナウラは見事に合わせて踊っていた。

まるで何度も聞いた事がある様に。


曲が1番盛り上がるとナウラは更に動きを激しくさせ、情熱的にシンカに視線を送り身体を見せつける様にくねらせ、頭や腰を振り脚を動かし交差させ地を踏んだ。


シンカは激しく弦を掻き鳴らし、足で器具を踏み太鼓を打った。


そして最後に静かに弦を鳴らし、ゆったりと曲を弾く。


ナウラは激しい動きを終わらせて優雅に回り、手足を動かし、曲の終わりと共に武術の残心の様に動きを止めた。


今度は激しい動きに肩を上下させていた。

額には汗の粒も見える。

シンカは布を取り出してナウラの汗を拭ってやった。


「どう…でしたか?」


まだ荒い息を吐きながらナウラは訊ねた。

シンカは羞恥に後頭部を掻きながら口を開く。


「愛が重い」


「重いとは何ですか、重いとはっ」


「いや、お前は俺の事が好きなんだなと思った」


「今ひとつですね。愛してる、と伝えたつもりです」


分かっている。気恥ずかしくて伝えられなかっただけだ。

何よりも踊りなど踊らなくとも、彼女が自分を真っ直ぐ見つめるだけで、その愛情は痛い程に伝わってくるのだ。


目は口程にものを言う。そんな言葉もあるくらいだ。


ナウラはその後3曲もシンカに曲を奏でさせ、自分が込めた想いを当てさせた。


答えの方向性は一つだけである為、シンカはその甘さに居た堪れない気持ちにすらなっていた。


確かにこれはエンディラの民の逢引きなのだろう。良くわかった。

彼女らはこうしてお互いに愛を伝えあっているのだ。


暫くそうして過ごすし、一度休憩を挟むとナウラはシンカにひたりと寄り添い口を開く。


「シンカ。このままでは愛情表現が片道になってしまいます。貴方の気持ちを私に教えて下さい」


普段のつんとした様子はどこへやら、ナウラは人目がないのをいい事にシンカに甘えていた。


「どうすればいい?」


「一緒に踊りましょう。さぁ、立って下さい」


ナウラは先に立ち上がるとシンカの手を引いた。


「俺は踊りなど踊った事も無いが…」


「私が教えて差し上げます。ふふ、私にもシンカに教えられる事があるのですね」


ナウラはシンカが揺り戻しを恐れる程に上機嫌であった。


立ち上がるとナウラはシンカの両手を取った。

ぴたりと正面からシンカに張り付き、至近距離からシンカの顔を見上げた。


上目遣いに大きな目が更に大きく見えていた。

見つめ返すとナウラは小さくシンカに接吻をした。


「私の身体からシンカの身体が離れない様に動いて下さい。私が右足を下げればシンカの左足を前に。私が左足を進めればシンカは右足を下げて下さい」


いいですね?と念押ししながらナウラは再びシンカの口を短く吸った。


「……うん」


ゆっくりとナウラが動き始めた。

踊りは初めてでもナウラの動きに沿って身体を動かす事はシンカには容易い。


それはシンカの能力でもあり、ナウラと心を通わせているからでもある。


抱き合う様に2人重なり合い、ゆっくりと脚を動かし、身体をゆすり2人で踊っていた。

長らく。


ナウラは時折りシンカの股の間に脚を差し込んだり、擦り付ける様に外側から脚を絡ませる様に動かした。


雌蜘蛛に絡め取られた雄蜘蛛であるかの様に感じてしまいシンカは内心苦笑した。


それは考えすぎだ。どちらかと言えば獣の縄張り行為の方がしっくりくる。

匂いをつけて自分の物だと主張する行為だ。


ナウラにそう言う意図があるのかは分からないが、この踊りは元はそう言う意図で作られた踊りに違いないとシンカは考えていた。


ゆったりとした時間が流れていた。ナウラは踊りの合間合間にシンカの口を吸った。


ぴたりと合わせられた身体の前面にはナウラの豊満な乳房の感触が伝わっていた。

彼女の大ぶりな柑橘の果実の様な乳房はシンカの胸板で潰されて、相変わらず深い谷間を作っている。


いつの間にか日は高く登り、そして傾き始めていた。


「帰ってきたら、また一緒に踊りましょう。今度はもう少し動きの激しいものを一緒に踊ってみましょう」


ナウラはそう締め括った。


2人家路を辿り帰宅するとそのままシンカの寝室に向かう。


2人で踊った気持ちの高ぶりのまま、直ぐに抱き合い激しく接吻をする。


「約束してください。貴方の居場所は此処です。私の隣です。必ず帰ってきて下さい」


「ああ。約束する。必ず帰る」


強く抱きしめる。

接吻したまま腰から抱き上げて寝台に運ぶ。


そのまま押し倒し、後は情緒も無く激しくナウラを抱いた。


恐れを掻き消すように、何も考えなくていいように。




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