赤い箒星

森の浅層を素早く駆ける人影があった。


三度笠を被った20後半のその男はニルスという山渡りだった。

ニルスは天界山脈の里からヴィティア戦線に派遣されていた。

山渡りの優秀な戦士で構成された赤土という集団の中の1人であった。


赤土は30人で構成された組織だが、その内10人がヴィティアに派遣されている。

山渡りとベルガナ王国は協調関係にある。

どの様な繋がりかまではニルスの知識にはなかったが、赤土の長であるレミは里と王都を行き来している様であった。


赤土の10人に与えられた任務はヴィティアで忽然と姿を消したいくつかの中隊の捜索と、遊撃部隊の指揮官を暗殺する事であった。


ヴィティアの国境を超えて10日。ポルテからウルマへ向けて進みニルスはレミと合流した。


「レミ様。」


レミはニルスと同年代の女だが、その優秀さは山渡りの中でも10の指に入る程である。


「ニルス。何か手掛かりは?」


「いえ。ここまでは遺留物一つ見つかっていません。」


「そう。・・上手くない。」


「はい。申し訳ありません。」


「いい。それよりも、ハンスとエミルの2人と連絡が取れない。あなた、知らない?」


「いえ。連絡は取っておりません。」


「そう・・・。」


森の中をウルマへ向けて歩を進めた。

山渡りは今上層部しか知らされていない目標の為に慌ただしく動き回っている。


体を鍛え、知識を得る事しかしてこなかったニルスにとって、こうして里を出て己の技量を活かせる事は喜びに満ちていた。


レミと行動を共にして2日目。

2人は森の中の痕跡を見落とさぬ様注意深く進んでいた。

ヴィティアの浅層は高温多湿で雨も多いせいか、独特の形状の樹木が多くを占め、形状もさる事ながら色合いや生態までが他の地方とは一線を画す。


薬草もその分多いが毒草も多く、また魍魎も毒を持つものが多い。

葉や花にはなるべく触れぬ様全身を覆うため発汗量も多い。

そんな森から一時的に出て路を歩いていた時のことだった。


レミが前、その10歩後ろをニルスが歩いていると、道端で木を背に突っ立っている若い女に行き合った。

女は中肉中背のシメーリア人で、美しい面立ちをしていた。

だがその目付きは異様に悪く、三白眼でじっとりとこちらを目詰めていた。


「其方。何者だ?」


女は厚手の苔色の外套を羽織っていたが、腰には間違い無く剣を佩いている。

レミがいつでも剣を抜ける様に脚を開いた。


「何者だ。我等に用か?」


単刀直入に尋ねた。


「・・どうして僕が君達に答えなきゃいけないの?・・僕がここで休んでたら勝手に来たんじゃないか。」


言い分は至極真っ当だが、肌に粘りつく様な殺意がまとわりついていた。


「・・私達は仲間を探している。同じ笠を被った者達だ。それと、多くの兵士がこの辺りで行方を絶っている。何か知らない?」


女が僅かに身じろぎをした。

その瞬間空気の質が変わった。

女は口元をにたりと歪め、舌舐めずりをした。

悪意の塊だった。


「何故、敵意を向けるの?」


レミが会話の糸口を探そうと口を開くが、ニルスは既に剣の柄に手を掛けていた。

あれは会話の成り立つ生き物ではない。

直感で悟った。


「ひひひひひひっ。僕だって、好き放題にしたい訳じゃないよ。でもね、君達は僕の友達を傷付けたから・・・。そういう屑は早く死んじゃえばいいと思うんだ。」


「友達?」


「レミ様!相手にしては駄目です!」


「まさか・・・お前は!白土の派遣部隊を壊滅させた森渡りか!」


「白土の・・では。」


「ハンスとエミルもお前達が殺したのね。」


「ひひ。始めたのは・・・君達でしょ。僕はよくわからないけどシンカがそう言ってた。根絶やしだって。僕もそう思うよ。ひひひひひっ。だってヴィーは悪い事してないのに死に掛けたんだよ。屑は死ねばいいよ。」


「訳の分からないことを。気狂いと会話しても無駄ね。仲間の仇を取るわよ!ニルス!」


「っ!」


「王剣仁位、レミ!」


「同じく礼位、ニルス!」


「・・ひひ、ふふ。」


「・・刃を隠す手業。鈴剣よ。」


高位の鈴剣流剣士は名乗りを上げないことが稀にある。

自身の流派を隠し、能力を悟らせない為だ。

這う様に女が動いた。巧妙に位置取りを調整しニルスとレミの延長線上を駆ける。


「ニルス、援護!」


「っ!」


ニルスは経を既に練り終えていた。

駆け寄る女に向けて地に手をつき大地を槍状に隆起させた。

脚を大きく開きどっしりと構えたレミは頭を守る様に剣を斜めに立て、女の一挙手一投足に気を配った。

竹林の構えだ。


地から生え出でた土の槍の合間を女は俊敏に抜けた。

不安定な足場にも重心がぶれる事はない。

相当の手練れだ。


だがニルスとて赤土に選ばれる選りすぐりの戦士としての自負がある。


土行法 松葉。

生え出た土の槍から鋭い無数の針が突き出る。


だが女は宙に飛んでいた。

見てから避けられる技ではない。

松葉を行う事を読まれていたのだ。


人の肩の高さまで跳躍した女は未だ剣を見せていない。

だがひりつく様な殺気で攻撃を仕掛ける意図だけは伝わった。

緊張に肌が汗ばむ。

跳ねた女の前に無数の水滴が浮いた。


「下らないね。」


水滴が飛ばされる。肌を打つそれは強い雨程度の威力しか持たない。


「レミ様!目潰しです!」


水行法 俄雨。


レミは無言で頷き目線に剣を掲げ、刃で水滴を受けた。


着地しレミの眼前に降り立った女は外套の隙間から右手を出し、素早く横に薙いで来た。

俄雨を防いで手を取られたレミに変わり、ニルスは前に出て剣を立てた。


向かって左から振るわれる剣戟を防ぐ。

直後、激しい痛みがニルスの顔に走った。

焼ける様な痛みと共に左の視界が利かなくなる。


「っ!?な、」


「ニルス!湾曲剣だ!」


湾曲剣。

南国セレキア発祥の名の通り刃が大きく湾曲した剣である。

刃が湾曲しているため、盾や剣で受ける際に気を払わなければ傷を付けられてしまう。


直前まで刃を隠していたのはこの為だったのか。

後悔は既に意味をなさない。


女は既に後退している。

レミはニルスの死角を庇うために左へ出た。

そして右手を振るう。

一条の焔が綱を渡る様に伸び、女へと迫る。

だが悠々と回避し複雑に軌道を変えながら再度突撃して来た。腕は外套に隠れて伺えない。


レミが右手を振るう。

眼前半間に火の壁が立ち上がる。厚さにして3尺。

剣では飲まれてしまう厚みだ。

火行法・赤穂だ。


だが、ニルスの予測に反して火の壁を突き破り剣の切っ先が突き出された。


「な、腕が焼けるぞ!?」


思わず口に出す。

ニルスの焦りを他所に、レミは油断なく竹林の構えを取っている。

剣が横薙ぎに振られた。

剣の軌跡から水が起こり、赤穂の火力を弱める。

火力が弱まったのは一瞬であった。


だがその僅かな間に女は赤穂を蜻蛉を切りながら飛び越え、その勢いのまま着地に合わせて竹割りに剣を振り下ろした。

レミは王剣の使い手。実直な太刀筋は難無く弾くことができる。


「ぐっ!?」


だがレミは呻き声を上げた。

女が振るった剣は湾曲剣ではなく、剣身が4尺半はある剣であった。

その上柄は片手で握る事しか出来ないほど短い。

断頭剣だ。


女が片手で扱える代物ではない。

レミは湾曲剣の重量を想定した力加減で攻撃を受け流そうと考えていた。

だが予想だにしない剣の重量に受け流したものの両の手首と右の肩を痛めていた。


「おのれ!」


背後へ跳んで次の攻撃を回避しようとするレミに追いすがる女。


「させるか!」


ニルスは両手を突き出す。

空気の塊が上空から叩きつけられる。

地面が凹むが女は逃れた。


再度女と距離が離れ仕切り直しとなったら。

だが先の対峙とは状況が異なる。

レミは出血こそしていないものの武器を握る事が出来ていない。


ニルスは左目を潰されている。


「レミ様。私が前に。援護をお願いします。」


「・・・」


レミが無言でいる理由は理解している。

万全の状態から僅かな時間でここまで押され、手傷を負っているのだ。


勝ち目は薄いだろう。

ニルスはカチ、と歯を鳴らした。

険しい表情でレミが見返す。

それに首を振るとレミは一度めを瞑り駆け出した。


来た道を走って行くレミ。

ニルスは一命を賭してその足が妨げられぬ様に目の前の気狂い女から時間を稼がなければならない。


任務に当たる仲間の失踪に森渡りが関与している事を本部に伝えなければならない。

両手を負傷したレミでは幾ばくの時間も稼げない。だからニルスが残った。


正面の女を残った右目で確認する。面立ち自体は美しいが、三白眼がそれを帳消しにしている。


穏やかな表情をしていればさぞや可憐だろう。


だが今は黒目の殆どが上瞼に隠れ、口元はだらしのない笑みを浮かべてた。

右の口角からは唾液が一筋垂れている。


レミが走り去って行く。女はまだ動かない。

動かない?

はたと思惑に気付く。


追う気が無いのだ。


里を出る前に森渡りの脅威については里長から説明されていた。

白土の精鋭が4人を待ち伏せにして返り討ちにあったと。


編成は8人に2体の従罔。3倍の戦力と言って過言では無いだろう。


だが敗れた。


シメーリア人とアガド人の混血の男、イーヴァルンの女、エンディラの女。

そしてシメーリア人の女剣士。

シメーリア人の女剣士はなんと言ったか。ヴィーを怪我させた、と言ったか。


つまり死んでいないと言う事だ。毒矢を打ち込んだと聞いていた。里に伝わる強力な毒だ。解毒したのだろう。


それ程の治療技術を持つのであれば男も死んでいない可能性が高い。


レミを何故女が逃すのか。

仲間がいるのだ。だから追わなくとも良い。


せめて知らせなければならない。

口笛で知らせようと口角に隙間を作った。

同じくして女が右に動き始める。

動きを視線で追い、しかしすぐに見失った。

ニルスは焦った。気配を感じる。左だ。


視線をやると女はもう間近に迫っていた。

視線誘導だ。

右に動き、すぐさま方向を転じさせたのだ。

片目であることが仇となった。

ニルスは危険を知らせる事も出来ずその意識を闇に沈めた。



ベルガナ第1師団が駐屯するウルマから3日の距離にある小さな街の郊外、森の中で2人の男が顔を付き合わせていた。

2人は山渡り赤土部隊の隊員だった。


鋭い目付きの痩身長駆の男と小柄で緩い顔付きの膨よかな男だ。

長身がウジン、肥満体がサブリと言う。


「それで。どうだ。」


陰気な声音でウジンが尋ねる。

サブリはそれに頷いた。


「何が?」


「お前。いい加減にしろ。何か情報があったか聞いている。」


「あえ、情報ね。あの町碌な食べ物ないぞ。立ち寄らない方がいい。」


ウジンは無言でサブリをど突いた。


「長と連絡が取れなくなってから10日。隊員も俺とお前の他にはキリルとしか連携出来ていない。何があった?」


蒸し暑い夜だった。其処彼処で虫が鳴いている。風も無く木の葉は揺れていない。本当に熱い夜だった。


「あ。それね。この町にはカラとコリンの2人組と単独でモリスが立ち寄ったみたいだね。行き先は分からない。3人とも女好きだから、如何わしいお店にでも入り浸ってる?」


「・・・」


ウジンは眉間に深い皺を寄せた。


「あ、3日前にここから東に3日の路で土行の行使跡を見つけたよ。上手く地面を慣らしていたけど、間違い無い。」


「土行か。ハンス、ニルス、キリル、カラの誰かか、或いは襲撃者がだな。」


「其処までは分からないんだよね。・・ねえ。さっきから気になってたんだけどさ。お腹空かない?」


「お前はだからそんなに太っているんだ。」


「食べる事はいい事だよ。」


「後にしろ。それでだ。矢張り皆の行き先は分からないか?俺は消えたベルガナ軍の消息を追っているが、未だ足取りは掴めていない。1000人の兵士だ。不可解を超えて不気味ですらある。お前の鼻で何か掴めないのか?」


サブリは非常に嗅覚に優れている。

匂いを犬のように嗅ぎわけることができた。


「不思議な事に、それが分からないんだよね。何かと闘ったのならどちらかは出血の一つもする筈だけど。全くだね。」


「ふむ。・・消臭か?」


「あ、それはあるかもね。」


「となると、魍魎では無く人と闘い敗れたということになるが。」


「あれ?なんだっけ。レミ様が出がけに何か言っていたような。」


「あれだ。森渡りに白土が反撃されて壊滅したというあれだろう。」


「ん?」


「何、あれ。」


森の木々の枝葉が陰っていない場所から夜空が見える。

深い群青色の空に3筋の赤い光が差している。


「彗星か。随分と大きい。」


「あまりいい兆しじゃないね。」


「ああ。」


「ウジン。」


「ああ。」


夜闇の中から何かが近付いてくる。

音は無い。


ウジンが両手を突き出し口を膨らませる。


口腔から吐き出された鋭い空気が闇の中に吸い込まれて行く。


立て続けに5発、風行法 釘打ちを起こし終わるとサブリが背負っていた自身の身長の7割も直径がある大楯を構えて気配へ向けて突進した。


大館は縁周りや面に鋭い棘があしらわれている。

身体の前に楯を掲げ、気配と激突した。


「がっ・・って!」


耳障りな大きな金属音だった。

まるで大きな金属同士がぶつかり合ったかのような。


サブリは突撃した時と同じ速さで吹き飛び、背後の木にぶつかった後下草の上へ転がった。


「なんだと!?」


ウジンは注意深く両手に長剣を構えた。

細長い体格も相まって蟷螂の様にも見える。転がった楯を拾いサブリが起き上がると暗がりが蠢き、滲み出る様に人影が現れた。


女だった。

外套を着込み、目深に菅笠を被ったドルソ人の女だった。


右手に何かを持っているが、位置関係上窺い知れない。


「お、女に弾かれただと?サブリ、お前いつの間に痩せた?」


「残念だけどまた太ったよ。最近膝がきついんだよね。」


「馬鹿が。この歳で膝を痛めたら残りの半生爺様のように過ごさねばならんぞ。」


「腰も痛い。」


「食い過ぎだ!」


ウジンは素早く女に駆け寄る。

女は左手を地に向けて突き出す。

ウジンの進行方向に土槍が突き出る。


放射状に次々と突き出る槍を避けるため背後へ急遽後退した。

その隙にサブリが楯を構えて再度突撃を仕掛けていた。


行法を使わせたばかりだ。

先の様には行くまい。


女が右腕を動かす。

何をしようにも付け焼き刃。

サブリの突撃を躱す事は出来ない。


女が振ったのは長柄の斧だった。刃は大きく厚い。

振れるとは思えない。見る限りそれは鉱石から削り出した物である。

だがもし振ることが出来れば。


「サブリ引けっ!」


「っ」


サブリは急制動をかけるが間に合わない。

女の右手が振り抜かれた。

先と同じ耳障りな音が響く。

サブリは弾き飛ばされて暗闇の中に消えていった。


ひしゃげた楯がウジンの元へ転がってくる。

中央は斧で裂かれ、弧を描いていた面も反対側へ凹んでいる。


恐ろしい怪力だ。掠っただけで肉まで持っていかれるだろう。


「サブリ。生きてるか。」


「生きてるよ〜。痛いよぉ。利き手が折れてる。これじゃご飯食べられない。」


「痩せて好都合じゃないか。」


「ウジンは細くて気持ち悪いからもっと食べた方が良いよ。っててて。」


サブリは直前で背後に飛ぶ事で衝撃を吸収した様だった。

それでも尚あれだけ吹き飛び、楯を破壊されて手首を骨折した。


予備動作無くウジンは動く。

持てる最速で肉迫し、両手の剣を交差させる様に振るった。


斧を振るわせる暇は与えない。

女は下がってそれを躱す。


「いたたたたっ!」


折れた両手を握り合わせたサブリが行法を行う。

大地が割れ、大量の水が女を押し流す。

水行法 大潮。

怒涛の勢いで女を押し流す水流に向けウジンは両手を突き出した。


「終わりだ!一角!」


白い稲妻の槍が水流に突き刺さった。


「俺たちに1人で挑もうとは。死にに来た様なものだな。」


「待ってウジン!仕留め損なってる!」


「なにっ!?やっちまった!」


「恥ずかしっ!」


大潮が引いて行くと土が丸く盛り上がり、すっぽりと女の姿を覆い隠していた。。土行法 大竃。


ウジンの手を読み流されて直ぐに行わなければ間に合わなかったはずだ。頭の切れる戦士だ。


どう攻めるか考えていると事態は急変した。

ウジンには大竃が爆発を起こした様に見えた。岩の塊が飛び散りウジンは全身を強かに打たれた。


「礫時雨・・なんだ?」


身体に当たった岩がどろりと溶けて纏わりつく。


「多彩な。練土を掛けて礫にしたか。」


「解説してる暇じゃないよ!」


「黙れ。サジンお前、まるで巨大な泥団子だぞ。」


「口に入った。じゃりじゃりする。」


「ん?何か来るぞ。火行だ!」


体勢を低くして行法に備える。

女は背を大きく反らせると笠の鍔を押し上げた。

口腔から幾度も赤い火の玉を頭上に吹き出す。


重量があるのか落ちる速さはそこそこ。

しかし躱すのが難しいと言うことはない。

赤い球は灼熱に燃え滾り落ちてもそこで燃え続ける。


ウジン達の知らぬ技だった。

この行法は火行法 椿散火。

椿の花が落ちるように火球が落下する事に由来する。


椿散火の使い所は高所からの奇襲にある。


次の行法を起こされる前にウジンは動いた。

ウジンは長い手足に寄る間合いの長さと速度を武器に、全身に不釣り合いな程鍛えられた両腕で二刀を操る。


速さと手数で攻めて、押し切れない相手はサブリの突進で強打を与え、その隙を支える。

山渡の中でも名高い2人組であったのだ。


女へウジンはかける。

蟷螂の様に両手を縮め、肉薄しようと最良の効率で脚を運ぶ。

動きの悪い身体を無理に稼働させ、女を殺めるべく最善を尽くす。


やらなければやられる。

それは間違いのない事だ。


・・動きの悪い身体?


体の動きが悪い。何故だ?


ウジンはサブリと異なり女の攻撃を受けてはいない。

受けたと言えば泥礫程度だ。

ウジンの身体に付着した泥は乾いて固まり体の動きを阻害していた。


「な?!」


火行法だ。避けて躱した他愛の無い火球が熱で泥を乾かしたのだ。

はなから其れが女の意図だったのだ。


「小癪な。小娘が。大人の怖さ、思い知れ!」


「ウジン、それ負け台詞だよ!」


「黙れ!これ以外に思い浮かばなかったのだ!」


女の腕が振るわれる。初動はさしたる速さを持たない。だが振るわれる頃には刃が空気を裂いて唸りを上げ、鳶が鳴くような甲高い音を立てている。

ウジンは最期の抵抗に両の武器を交差させて受け止めようとした。


抵抗虚しく剣は剛力に切り裂かれ、斧はそのままウジンに迫る。


「やられたっ!」


最期にそう叫び意識を閉ざした。


「何その断末魔!格好悪いよサブリ!・・ま、待って。最期にお肉食べ・・っ」


彗星が降る夜空の下、2人の男が敗れて地に伏した。

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