後編
手元の炎が揺れる。おばさんは笑顔で続けた。
「私もね、新しい和蝋燭の形を作れないかなって思って色々やってるの」
「どういうの作ってるんですか?」
「ウルトラマンの柄の和蝋燭とか」
「面白いですね」
思わず私は微笑む。無表情な和蝋燭がウルトラマンを纏う様は想像できそうで、できない。伝統というのは堅牢なようで、意外と滑らかなものなのかもしれないと思った。
「でもね、忘れられないことがあったの」
「何があったんですか」
おばさんは静かに話してくれた。
その間も炎は揺れ続ける。
ウルトラマンの和蝋燭を作ったあとに、それを全部買い取りたいって仰る家族の方が見えたの。決して安いものではないのに、どうしてだろうと思って聞いてみたの。そしたら、亡くなったお父さんがウルトラマンが好きだったから、お仏壇の蝋燭に使いたいって。
それを聞いた時、全部作り直させて下さいって言ったの。私、それを作ってる時凄く楽しかったの。蝋燭はただ灯りをともすだけのものじゃなくて、想いが宿るものだから、作り直さなきゃいけないと思ったの。
だから、そのご家族のことを想いながら作り直したのよ。
まるで厳かな告白のような話を私は静かに聞いた。ただの灯りではない、思いが宿るものとそれに向き合う人たちのことを考えた。
それは別の視点から眺めると、どこまでいっても「仕事」でしかない。職人はそういった視野から見ると、不安定と衰退の代名詞のようなものだ。
それでも、私はそんな人たちを美しいと思った。
夢とはなんなのだろう。そして、今の自分の間近にあるものとはなんなのだろうか。
私は江戸時代の人たちと共にあった炎の明るさと、陰と、揺らめきを眺め続けた。
和蝋燭は芯すら溶かして消えていく。
あとに残るものは何もない。そういうものを作った人たちと、遠い血の中で繋がっていると思うと、私は泣きそうになった。
私はそんな揺らめきを悟られないように、お礼を言った。
外に出たらまた現実が襲ってくる。
それでも、不思議と工房をくぐる前のような憂鬱さは消えていた。
こんなやり方、生き方もあると暗に教えられたような気がした。それはあのやかましい人材会社も、自己分析も教えてはくれなかった。街には無数の電気がある。その中で和蝋燭は拾われない骨のように、寄る辺がなく存在している。
私も同じように、弱い存在だった。
けれど私はやれる、と食いしばってみることにした。海の向こうを渡る和蝋燭の束のように、この中から脱けだすのだ。
意味のない椅子取りゲームはするまい、と誓う。
私は不思議と穏やかな気持ちで、形のない未来を見据えた。
和蝋燭 三津凛 @mitsurin12
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