空壜

安良巻祐介

 

 ある曇った朝、栓をされた青空印のびんを空き地で拾った。びんの硝子の色も、青みがかった透明で、透かして見ると目が涼しい。底にはわずかに何かの液が溜まっている。振ってみたら、しゃらしゃらと綺麗な音がする。果たしてこれは何かしらと、廃材の上へ座って、びんを空へかざして暫くぼうっとしていた。時計がいつの間にか正午を告げていたが、家へ帰りたくなかったので、聴こえないふりをして、廃材の上に寝転ぶと、母や父のこと、兄弟の事などが脳裏に浮かび、涙が少し滲んできた。頭の横へ置いたびんをもう一度取り上げる。中の水が波立って、しゃらしゃらとまた綺麗な音がする。こちらの思いなど知らぬげに。だんだん腹が立ってきて、コルクらしい栓に爪をかけて、思い切り引き抜いたら、すぱん、と音がしてびんが跳ねた。驚いて廃材の上から落ちそうになって、何とか体勢を立て直し、慌てて地面へ落ちたびんを拾い上げると、中身がすっかり抜けて、空っぽになってしまっていた。辺りにはうすい薄荷のような匂いが漂い、心なしか、硝子の色からも、青みが消えてしまっている。癇癪に任せてかわいそうなことをした、と、後悔しながら、ふと空を見上げたら、曇っていた空が切れて、青い色が少し見え始めていた。

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空壜 安良巻祐介 @aramaki88

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