掌編落書き集
シオン
嘘つきコンビニ
「これでよし」
休憩室で先輩がPOPを書いていた。普段あまりPOPを書かない先輩が珍しく書いていたので、興味を惹かれた私はそのPOPを覗き見た。
≪間違えて柿クリームパンを170個注文しちゃった!このままじゃいっぱいパンが廃棄されちゃうから皆買って~(はぁと)≫
ムカつくPOPですね。あなた男でしょうに。
「うおっ!……なんだお前か。店長が来たかと思ったよ」
店長じゃなくて悪かったですね。
「いやいや、お前で本当に良かったよ!ホントホント!」
何やら怪しい。
ちなみにこのPOPに書かれている柿クリームパンとは柿の風味をクリームに閉じ込めた、要は当店No,1不人気パンだ。
お客様からは「匂いが気持ち悪い」「とてもじゃないが飲み込めない」という苦情が届いており、今じゃ誰も買わない。
しかし、このPOPはどういうことですか?
「あぁ、誤発注したって嘘ついてちょっと売り上げを上げようと思ってね」
もしバレたらどうするんですか?店の信用とか、あなたの信用とかの問題で。
「バレないから大丈夫!」
先輩はその虚偽の含んだ(というか虚偽しかない)そのPOPを本当に貼ってしまった。
私知~らないっと。
†
その問題のPOPが貼られたまま、その虚偽に誰も気付かないまま時間は過ぎていく。
お客様にバレることはなくても、関係者にバレることは大いにあり得る。もしバレたら私は他人のフリをする所存です。
そしてそこまでのリスクを負っても誰も柿クリームパンを買わない。哀れ、先輩。
と思ったら一人の男子中学生が問題のPOPを注視した。まさか買うのか?
「早速効果が出たみたいだな」
先輩がカウンターから中学生を覗き見る。クビになってしまえ。
しかし、見て見ぬフリをしている私が言えることじゃないが、あんな純情な男子中学生が騙されるのは少し心苦しいものがある。
まあ何かあれば先輩の責任ですし、あの中学生が騙されたところで私は特に困らない。
こう見えて私はクズである。
「おい、お前このパン食べるのか?前不味いって言っていたじゃないか」
中学生の連れが何か話している。柿クリームパンの購入を止めているみたいだが、店の信用的に出来ればもっと強く止めてほしい。
「あのクソガキ、商売の邪魔をするんじゃない」
先輩は苛立ちを隠そうとしない。あなたのそれは詐欺と言うのだ。
「でも困っているみたいだからさ、不味いけど一個くらいは我慢出来る」
男子中学生が聖人のようなことを言う。なんて良い子なんだ。将来グレそうでお姉さん心配になるわ。
「でもさ」
男子中学生は言葉を紡ぐ。
「これがもし嘘だったら……もうここ二度と利用しねぇ」
店員が一番望まない形に。
私と先輩は数秒、顔を見合わせた。
先輩は無言でPOPを剥がして証拠隠滅した。
流石にまずいと思ったのだろう。
私もこの時ばかりは同じ感想を抱いた。
下手な嘘はつくもんじゃないね。
おわり
掌編落書き集 シオン @HBC46
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