第25話 深淵に蠢くモノ
ゴゴゴゴゴ……
リュネット達はヘリッジ城の地下――封緘領域に向かい、高さ十m以上ある特殊な移動式の巨大な部屋を使って移動する。
部屋は二つあり、一つは財物の神タンミョウを閉じ込めるのに使っていた。
巨大な地下の洞窟で、地上に比べて温度が低いだけでない。
洞窟の奥から冷気をはらんだ空気が漂っていた。
部屋にいるにも関わらず、その冷気が壁をすり抜けこの場にいる者の体に纏わり付く。
「う”~、それにしてもなんか不気味なとこですね……」
冷気に思わず体を震わせるヒルデ。
ランタンを持つ手が震える護衛達。
「そうですね。 ですが、行かないわけには行きません。 ――そろそろ着きますよ」
時間にして十五分。
徒歩での移動の半分の時間で目的地に辿り着いた。
リュネットは此処に留置されているタンミョウの様子を念の為、護衛の神殿騎士に確認い向かわせる。
「リュネット様、この先何か物凄い感じがしますよ!」
ヒルデは額から体中から汗が吹き出す。
それはヒルデだけでなく、この場にいる全員同じであった。
(これは神威――この封緘領域に閉じ込められたモノの威圧!!)
リュネットは此処に閉じ込められたモノのいわくを思い出す。
ここに封じ込めたモノは神と同質でありそれ以上の存在。
その為、神々が力を合わせても対抗手段が限られる。
だが、そのまま放置すればこの世界や神々に仇なす。
故にこの封緘領域に閉じ込め弱らせ、あわよくば餓死を狙った――と。
(死ぬどころか力を蓄えた――三柱様の恐れていた事態が現実になてしまった。 よりによって邪神が復活したこの時に!!)
「とにかく、中の様子を調べましょう」
この移動式の巨大な部屋には格子に囲まれた牢屋が設置されており、その牢屋の横の壁は開閉式なっており、封緘領域の入り口と繋がっていた。
リュネットは事前に教えられた通り、レバーを下げて牢の壁を開放――そして、牢の中に入る。
開放された壁の先の空間は封緘領域である。
牢の中に入るとリュネットは女神ルーキスから渡された魔道具を取り出すと、説明されたように真ん中に巻かれた紐を掴んで開放された封緘領域に向かって魔道具を転がす。
ちなみに神具ではなく魔道具なのは、封緘領域では神具は封じられてしまう。
どういう理由か、実は封緘領域では通常のスキル――魔術や法術といった能力は行使できる。
なので、ルーキスは神具ではなく魔道具を渡したのだ。
魔道具が封緘領域入った瞬間――その魔道具に繋がる紐を伝って黒い何かが伝って来る。
(不味い!)
「レバーを上げて下さい!」
慌てて紐を手放すと、リュネットはレバーの近くにいた護衛の騎士に指示。
レバーを上げさせ、開放した壁を閉じる。
しかし、壁は黒い何かの強い力で阻まれ、閉じる事が出来ない。
「皆様! 急いでここから離れるのです!」
この場にいるのは危険と判断したリュネットは、全員にこの場から避難するよう叫んだ。
普段のノンびりした雰囲気が一欠片もないリュネット。
そのリュネットの指示に従い、全員牢屋から出ると急いでその場を離れた。
暫くすると、絶叫が洞窟一杯に木霊となって響いて来る。
恐らく、もう一つの牢屋――財物の神タンミョウが閉じ込めてある牢屋の中からだろう。
リュネトは涙を浮かべ、ヒルデは両耳を手で塞ぎながら洞窟の入口に向かって、ただひたすら走り続けた。
「ハァ、ハァ……ここまで、来れば……」
一人の護衛が呟く。
地下洞窟の途中まで息を切らし、何とか辿り着いた一行。
入り口まで後半分もある。
既に体力が切れ、全員走るペースが落ちていた。
「ヒルデ! 後ろ!」
「ヒッ!?」
洞窟の先――今、自分達が走って来た方向。
暗闇で何も見えない。
しかし、得体の知れない何かが迫っているのが、リュネットとヒルデの二人には感覚で判った。
「……この場所も危険です。 急いでこの地下洞窟から出ましょう」
☆
「ハァ、ハッ!」
(……入り口は……まだ?……まだ…なの……?)
走り続けて重くなった足を何とか動かし、前へと脚を動かすリュネット達一行。
リュネットとヒルデの着衣は乱れ、走るのに邪魔な部分は持っていた短剣で斬り裂き、生足を惜しげもなく晒している。
リュネット達はあの後、得体の知れない何かが迫ってくる恐怖から、休むことなく走り続けた。
護衛達は日頃の訓練の賜物で体力にまだ余裕はあったが、運動に慣れてないリュネットとヒルダは既に限界に達していた。
「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!? やった! やっと出口にたどり着きましたよ!」
明かり取りのランタンの光が、大きな出入り口の扉に反射して、朧気ながらその姿を照らす。
その扉を目にしたヒルデは元気を取り戻し、リュネットに大きな声で知らせた。
得体の知れない何かから逃げ切った!
安堵感から気が緩む一行。
ゾクッ!
「えっ!?」
「リュネット様! 危ないっ!!」
洞窟の奥から凄まじい数の黒いモヤ状の触手が現れ、リュネットに襲い掛かる。
それに逸早く気付いたヒルデはリュネットを突き飛ばし、代わりに自身が黒モヤの触手に飲み込まれた。
「キャァァァーーーッ!!」
「ヒルデッ!?」
「お待ち下さい!! ヒルデ様は我々が助けます!!
「リュネット様はここから直ぐに脱出をッ!!」
リュネットは黒モヤに飲み込まれたヒルデを助けようと思わず駆け出そうとするが、護衛の騎士達に止められる。
そして数名の護衛達が、ヒルデ救出の為、剣を抜いて黒モヤの中に入ろうとするが、それよりも早く黒モヤの触手が護衛の騎士を絡め取る。
「クッ! このっ!!」
騎士達は自分に絡まる黒もや触手を剣で払おうとするが、実体の無い煙の如く、払われた瞬間だけ消えるがまた直ぐに復活し、騎士達に絡み付く。
「うわあぁぁーーー!!」
「ヒイィィィーーーッ!!」
「ぐおおおぉぉぉーーー!!!!」
そして騎士達は、触手に触れられた部分から生命の根源であるマナを吸われ、見る見るうちに痩せ細り――その場で命果て倒れた。
ヒルデを救出しようとした騎士達のマナを吸い尽くした黒モヤの
今度はリュネット達を標的と定めた。
「ここは、我々が足止めを!」
「リュネット様はお逃げ下さい!」
「ダッ、ダメッ!」
女神ルーキスに仕える巫女であり、聖女であるリュネットを守る為、護衛の騎士達が剣を構えて触手の前に立ちはだかる。
仲間である騎士の無残な死に様。
その光景を目撃したにも関わらず、騎士達は一歩も引かない。
恐怖心を抱きながらも自分に課せられた使命を全うしようとする騎士達。
「……御武運を!」
彼等の覚悟を悟ったリュネット。
彼女にできる事は彼等の使命の為、自分がここから無事脱出し、生き延びること。
そして、自分の為に死にゆく彼らに祈りを捧げることだけだった。
「何としてでもリュネット様を逃がす! 結界を張って足止めを!」
「「「【ホーリーウォール】」」」
護衛の騎士達も死を覚悟し、リュネットが逃げる時間を稼ぐ為、洞窟内に聖なる力が籠もった障壁を展開する。
その障壁に阻まれ、侵攻を止められる黒もやの触手。
だが、それも一瞬の事。
「何っ!?」
「けヶ、結界が……」
「消えた?」
黒もやの触手は聖なる結界【ホーリーウォール】に込められたマナを食い尽くし、その為結界が維持できずに消滅してしまった。
「もう一度――ガッ!?」
「駄目だ……もう……グッ!!」
「ギャアァァァーーー!!!!」
黒もやの触手は騎士達の行為をあざ笑うかのように、残る騎士達の生命のマナを吸い尽くした。
甲殻の竜騎士 真田 貴弘 @soresto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。甲殻の竜騎士の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます