第24話 本来の勇者と召喚勇者
僕が骨付き肉をヤケ食いしているとランディスさん、ダニエルさん、ミハエルさんの三人が乱入してくる。
「おまっ!? 肉を独り占めすんな!!」
「タダ君!! その肉は貴重なものなんだよ!!」
「我々にも食べさせろ!!」
あ、ちなみに僕が食べてるこの肉、ワンモスと呼ばれる動物のものです。
この肉、僕にとっては未知の味で、そしてとんでもなく美味だった。
匂いは多少臭みというか、癖があるけど、それは不快なものではなく、逆に燻製みたいな食欲をそそるものだった。
味は例えて言うなら牛・豚・鶏の良いとこ取りした感じかな。
ワンモスはこの周辺地域ではヘリッジ皇国でしか食べられないそうだ。
昔はこの大陸全土に生息していたけど、乱獲し過ぎて生息域が縮小してしまった。
その為、徹底的に保護していたら、今度は地球世界のクジラのように増え過ぎて生態系を崩してしまった。
なので狩猟には頭数制限を設けて適度に行っている。
僕達四人が肉に夢中になっているその横で、ティターニアさんはレッドさんとヒルデさんに僕達が行方不明だった間のサンドリオン帝国の状況を話す。
僕達が巨獣の檻から帰還予定日を過ぎても帰ってこないのを、何か異常事態が発生したと判断したレイヤさんは直ぐに捜索隊の編成と派遣を皇帝に進言したのだけど、宮廷魔術師長のナハトラさんに大反対された。
それに同調した皇帝が僕達の捜索を拒否。
こういう時は冒険者ギルドに依頼……しようにも、冒険者ギルドは既にサンドリオン帝国から撤退していた。
仕方ないので公爵家とレッドさんの侯爵家の協力を要請して巨獣の檻に捜索隊を派遣したそうだ。
僕はここで初めてレイヤさんが公爵である事を知る。
公爵って……レイヤさん、レッドさんに続いて貴方もですか……
そしてティターニアさんにもレイヤさんから連絡を受けた。
自身も捜索に参加したかったが大事な役目がある。
その役目を引き継げる人を探して代役を頼み、いざ捜索に向かっていたら、皇都から出る寸前で僕達が魔王エルディアを倒し、女神ルーキス様や聖女リュネットさんを連れて皇都ヘリッジに向かっているという情報を聞いて慌てて引き返したという。
「行き違いにならなくて良かったです」
「そうだな。 ティータにも心配い掛けてすまなかった。 ……レイヤ隊長からは他に何か連絡なかったか?」
「あっ、そうです! 召喚された勇者達の情報が来てます!」
「何かあったのか?」
ティターニアさんは僕をちらっと見て答える。
何だろ? 僕に何か関係あるのかな?
「タダ様の他に四人の勇者の協力者を得られたそうです。 その中にはタダ様の知り合いもいらっしゃって、レッド様達の捜索にも協力してもらっているとか……」
あー……もしかして、桂木君の事かな?
そういえば僕達の方の事情をそろそろ皆に話そうかって所で、巨獣の檻に行っちゃったからなあ……
その後も魔王とのゴタゴタですっかり忘れていたよ。
多分、僕が帰って来なかったから自分の方からレイヤさんに接触したんだろう。
「タダ君、勇者の中に知り合いがいるのか?」
レッドさんが尋ねる。
その表情は僕にちょっと不信感を持っている感じだな。
「えーと、すみません。 彼とはこの世界に召喚されてから暫くして彼の方から接触して来て、僕も知らない事情を聞かされたんです……」
僕はここに居る皆に僕達トゥーレシア――地球側の事情を話す。
その際に本来の邪神討伐メンバーには僕と桂木君、そしてもう一人――
「それじゃあタダ君の召喚は、予備やオマケじゃないという事か……ヒルデは知らなかったのか?」
「知りませんよ、そんな重大な話!!」
レッドさんに尋ねられたヒルデさんは動揺しているのがよく分かるほど悲鳴に似た大声で答える。
「桂木君が言うには神の眷属らしきモノが兵士や傭兵に化けて、サンドリオン城に潜り込んでるらしいです。 だから迂闊に話せなくて……」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
桂木君が言うには正体を隠して召喚者達にそれとなく接触しているらしい。
その目的は分からないけど。
ただし、桂木君や烏丸さんには何故か近寄ってこないらしい。
「確かにこんな話、軽々に人に話すことは出来ないな……」
レッドさんは深刻な顔をして黙り込む。
皆も考え込んでしまい、そのまま注文した料理を黙って食べた。
☆
食事を食べ終え、料理屋の外に出るとこの店の店主であるポメロさんが見送ってくれた。
外はすっかり日が落ちている。
だが人々の賑わいは衰えず、そこかしこで店への呼び込みや、酔っ払い達の笑い声が聞こえる。
ティターニアさんと分かれる時、彼女に礼を言われた。
「タダ様、魔王エルディアからレッド様の命を助けて頂いてありがとうございました」
「当然ですよ。 レッドさんは大事な仲間であり……僕にとっては兄のような頼りになる存在ですから」
「……」
「おんや~? 副長、もしかして照れてます~?」
レッドさんは照れ隠しなのか、俯き加減で横を向いている。
それをランディさんがからかう。
「あ! 当然、ランディさん、ミハエルさん、ダニエルさんもですよ!」
「オマケみたいに取って付けて言うな!」
「あはは! そう言いながらランディスも照れてるじゃないか」
「ウム! タダに意表を突かれたな」
「うっ! うっせえ! お前らだって照れてんじゃねえか!」
先程までの暗い空気が吹き飛び、普段の明るい雰囲気が戻って来た。
ティターニアさんと別れた僕達は、道行く人々に再び注目されながら真っ直ぐ神殿に向かう。
「それじゃあ。 私はリュネット様の所に戻りますね」
神殿に辿り着いたら今度がヒルデさんが別れを告げ、自分が仕えるリュネットさんの所に戻ろうとしたその時、神殿の入り口から数名のお付きの人を連れたリュネットさんが出て来た。
しかもそのお付きの人達、全身鎧を着込み、剣や槍、盾などの武具を携帯してなんだか物々しい。
「あっ! タダ様! ヒルデ!」
「リュネット様?」
「リュネットさん? どうかしたんですか?」
慌てている様子のリュネットさんに尋ねると、ルーキス様や神殿に降臨した神々の指示でお城に向かうと言う。
「城の地下にある特別な場所に、今から向かう事になりました」
「もしかして……封緘領域ですか?」
「ええ……お祖母様――陛下から御聞きに?」
「地震が起きた時、宰相さんが説明してくれたんです」
「そうですか……あれ? そう言えば皆さん、どうして神殿に戻って来たんですか? 私共はてっきり、お城に宿泊するものだと思っておりました」
「女皇様には失礼なんですが、僕の我儘で遠慮したんです。 昼間の地震でちょっと……あ、いや、何でもないです!」
リュネットさんの身内が住んでいるお城に対して”嫌な感じがして気味が悪かったから”なんて、さすがに失礼過ぎて言えない。
だけどリュネットさんから僕が予想していなかった反応が返ってきた。
「……もしや、タダ様は感じられたのですか? 地下から湧き出す何かの気配を……」
「リュネットさんもですか!?」
「はい。 私だけではなく、ルーキ様や神殿に降臨なされた神々も感知しておられました。 ですので、今から私が確認に向かう事になりました」
「でも封緘領域って……中に入ったら神様でも危険だって聞いたんですけど……」
「ルーキス様からその為の魔道具を授けて頂きました。 これを使い中を調査いたします」
僕の疑問に、リュネットさんはゆったりとした神官服の袖の中から何かを取り出し、それを見せてくれた。
それは
「皆さん、宿泊場所はどうなさるのですか? 良ければ神殿の宿泊施設をお貸し致しますが」
「聞いてくださいよ、リュネット様! 皆さん、クルールの中で寝るって言うんですよ!」
「まあ! それは窮屈ではありませんか?」
「それが案外快適なんですよね。 クルールの中って疲れにくいし、少し休んだら体力や疲労が直ぐに回復するし」
レッドさん達は僕の意見に同調してウンウン頷く。
「リュネット殿の厚意には感謝する。 だが我々は、明日早くサンドリオンに向けて出発するつもりだ。 体の回復を考えたら、クルールで休んだ方が良いと判断した」
「そうですか……本来なら恩人である皆様に碌なおもてなしが出来ないのは私としても大変心苦しいですが。 それでは失礼します」
リュネットさんはそのままヒルデさんと武装したお付きの人を伴い城に向かう。
その光景を見送った僕は劉武に、レッドさん達はそれぞれのクルールに乗り込み、その中で休息を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます