世にも奇妙なけものフレンズ

@legacy_of_00s

第1話「げんきばらい」

【注:漫画版のようなフレンズが人間の文化の中で生きているという世界観です】


タイリクオオカミ「こんな話を知っているかい?昔、あるところにアイドルに憧れるコハクチョウというフレンズがいたんだ。」

彼女はアイドルのようにきらびやかな服を着たいと強く思っていたけど、実際そんなことをするお金はない。

そんなある日、彼女がいつものように、学校から帰っていると、路地裏に、怪しい屋台を見つけたんだ。

そこには、「元気払い」と書かれていて、いかにも怪しそうな店主が、こちらに手招きをしてくる。

最初彼女は逃げようとしたらしいけど、屋台には、彼女が憧れていたようなきらびやかな衣装が飾ってあったんだ。

彼女はそれに一目ぼれしてしまって、店主の元へと行ってしまったよ。

店主「いらっしゃいませ」

コハクチョウ「こ、この服、いくらなんですか?た、多分買えるお金は持ってないですけど…」

店主「お金?御冗談を。そんなものはいただきません。なんてったってここは元気払いの屋台ですから」

コハク「元気払い…ですか?」

店主「ええ、あなたの元気を少ーしもらえれば、それで充分です。」

いきなりこんなことを言われたら、もちろん困惑するよね。彼女も最初は、身売りのことだと思ったみたいで、立ち去ろうとするよ。

コハク「すいません、失礼します…」

店主「本当にいいんですか?ここにある服は全て一点限り!同じものは二つとしてありません。他のお客さんに買われたら、あなたが一目ぼれしたこの服は、一生手に入らないんですよ?」

コハク「え、えぇ…」

店主「これが最後のチャンスです。よくお考えになってください。」

彼女は店主の口車にまんまと乗せられて、「元気払い」での購入を決めてしまうんだ。

コハク「わかりました…私、この服、買います!」

店主「毎度ありがとうございます」

その時、彼女に異変が起きたんだ。

コハク「はぁっ、はぁっ、なんでか急に息が…まるで走った後みたいに…」

彼女が店主の方を見ると、元から何もなかったかのように、店主も、「元気払い」の屋台も、忽然と姿を消していたんだ。

その代わりに、そこにあったのは、丁寧に包装された、憧れの服と、レシートのような紙切れだった。

コハク「えっ、店が…ない!?あ、この服…もらってしまっていいんでしょうか…ん?『50m走1回分 ありがとうございました』?何のことでしょう?」

次の日、彼女はその服を着て街に遊びに出かけたよ。すると、友達にも、街行く人にも、彼女は注目の的になったんだ。

友達「コハク!?その服、どうしたの?」

コハク「ええっと、昨日、もらったって言うか、買ったっていうか?」

友達「とにかくその服すごいよ!まるでコハクまできれいになったみたい!」

???「そこのお嬢さん、少しお時間よろしいですか?」

コハク「えっ!?」

曲尾「私、芸能プロダクションでマネージャーをしている曲尾(まげお)と申します。お嬢さん、アイドルに興味はおありですか?」

なんと、彼女はアイドルにスカウトされてしまったんだ。願ってもないことに彼女は大喜びだね。

曲尾「今度、うちのプロダクションでパーティーがあるので、ぜひお越しください。あなたの先輩となるアイドルの方々ともお話できますよ。」

コハク「は、はい!ぜひ、参加させていただきます!」

彼女は夢のまた夢のような出来事の連続で浮かれていたけど、後で冷静になると、一つの問題に気づくよ。

コハク「パーティーに着ていける服がない!」

そう。彼女は「元気払い」で買った服以外、まともな服は持っていなかったんだ。

コ「どうしよう…」

彼女が茫然として、家をフラフラと抜け出し、あてもなくさまよっていると、またあの文字が見えてきたんだ。

コハク「元気払い!」

店主「何か、お困りですかな?」

コハク「パーティーに参加することになったんだけど、着ていける服がないの。何かいいのがあったら見せてくれない?」

店主「それならこちらはいかがでしょう?」

店主はどこからともなく、優雅さと清純さを兼ね備えた、まさに白鳥にピッタリのドレスを取り出したよ。

コハク「き、きれい!これを、私に売ってくれるんですか?」

店主「ええ、売ることもやぶさかではないのですが、少々値が張りましてね…」

コハク「構いません。この服、買います!」

店主「かしこまりました。毎度ありがとうございます。」

その時彼女に襲ったのは、以前とは比べ物にならない「疲労」だったよ。胸は、肺がひっくり返ったように痛み、足は、文字通り棒になって動かせなくなり、

全身からは一気に大量の汗が噴き出たんだ。

コハク「うぇッ!コッ!はぁ…はぁ…な、何!?」

彼女が顔を上げると前と同じように、消えた屋台の代わりにドレスと、レシートが置いてあったよ。

コハク「やった…これでパーティーに出られる。ゼェゼェ…フ、『フルマラソン1回分』!?どうりで辛いと思った…」

そしてパーティ当日。そこには彼女の憧れるアイドルユニット「PIP」のメンバーも集まり、ファンやマスコミ関係者も押し寄せるとても賑やかな光景が広がっていたよ。

コハク「わぁすごい…本物の、PIPがそこに…」

曲尾「あ、君、そこにいたんだね。早速、PIPにあいさつしに行こう。」

コハク「はい…(でも、緊張する…私なんかが話しかけてなんて言われるんだろう…)」

曲尾「遅くなってごめん、前言った新人を連れてきたよ。」

イワビー「お、お前が新人のコハクか!よろしくな!」

ジェーン「そのドレス、とっても似合ってますよ!」

コウテイ「清純で優雅、まさにハクチョウにピッタリのドレスだ。気合が入っているな。」

フルル「じゃぱりまんたべる~?^p^」

プリンセス「もう、この子ったらいつでも食べものばかり!」

みんな「ハハハハハ!」

パーティーは大成功。彼女は、ドレスだけでなく、その純粋さも評価され、先輩ともすぐ溶け込むことができたんだ。

元気払いで時折衣装を買っていた彼女は、最初はPIPの前座だったけど、段々彼女のために来てくれるお客さんも増えてきた。

でも、そんな時ある事件が起きるんだ。

コハク「えっ!?曲尾さんがクビ!?」

ジェーン「はい、悲しいですが…」

コハク「でもいきなりどうして!?」

コウテイ「彼女は、人間になりすましたフレンズだったんだ。フレンズはあくまでパークの展示品。我々のような見世物にはなれても、それをマネジメント、経営する立場には決してなれない。それはあくまで人間の仕事だ。」

この時、フレンズには人権が認められていなかったんだ。あくまでパークの展示品として、見かけ以外の生活は最低限しか保証されていなかった。コハクが服を買うことができなかったのも、このためだ。

コハク「曲尾さんが、フレンズだったなんて…でも、それでも、ひどすぎます!彼女は一生懸命、私たちを支えてくれたじゃないですか!」

その時、突然外が騒がしくなった。

イワビー「大変だ!曲尾の奴、ビルから飛び降り自殺しやがった!」

コハク「えっ!?」

彼女が多くの野次馬を押し分けて、その中心に向かうと、そこには、曲尾の服に被さった、耳と尻尾のないマーゲイの死骸があった。

コハク「そんな…そんな…フレンズに人権が認められてないがために…」

彼女はある決心をして、その場を後にした。

もはや路地裏にすっかり見慣れた「元気払い」の屋台。その前には、今まで買ったすべての衣装を持ったコハクの姿があった。

コハク「すいません!」

店主「おや、コハクさんどうなされたのですか?そんなたくさんの衣装を抱えて。」

コハク「今日は、服を買いに来たんじゃないんです!この、今まで買った服で、私の元気を、少しでも返していただけないでしょうか!」

店主「つまり、元気を服で買いたい、とおっしゃっているわけですね。うーん、困りましたねえ。うちでは普通、そのようなことはしていないものですから。」

コハク「お願いします!今、私には元気が必要なんです!曲尾さんを失った悲しみから抜け出して、もう二度と、あんな犠牲を出さないようにするための!」

店主「意志は固いようですね。わかりました。今回だけ、特別に元気をお返ししましょう。」

突然目の前が真っ白になったコハクが気づくと、抱えていた服はすべて消え、その代わりに、体に元気が満ち溢れていた。その感覚は彼女にとって久々のものだった。

コハクはその元気を使い、何日も、何日も部屋に引きこもって、ある歌を作った。

そして次の日、制服姿でステージに立ったコハクは、客の前でこう言った。

コハク「先日、私たちを支えていた曲尾さんが亡くなりました。原因は、彼女がクビになったからです。彼女がクビになったのは、決して、仕事ができなかったわけでも、何か悪いことをしてしまったのでもありません。彼女は、フレンズだったのです。」

客は騒然としている。彼女は続ける。

コハク「彼女は、私たちのことをいつも考え、全身全霊をかけて支えてくれました。彼女は私の家族のようなものでした。私は、もう彼女のような犠牲者-のけもの-を出したくない!」

コハク「この思いを、私は歌にしてこれを見ているみんなに伝えます。聞いてください。『ようこそジャパリパークへ』!」

「けものはいても、のけものはいない。本当の愛は、ここにある。」

その歌は、彼女の願いそのものが込められた歌であった。彼女が望んだのは、人間より優位になることでも、人間への復讐でもない。

彼女はただ、この人間に所有された偽りの生活から抜け出し、みんなが平等で、愛し合うことができる世界を作りたかったのだ。

このステージ以降、パークの各地で、フレンズに人権を求める運動が起こった。

集まった大勢のアニマルガールが暴動を起こしている、として、パークの「職員」達が、それを鎮圧すべく駆けつけ、小競り合いが始まる。

「君たちは道路を封鎖している!今すぐ解散し家に帰りなさい!」

「あなたたちなんかに邪魔されてたまるものか!我々は誕生以来、お前たち人間に抑圧されてきた!我々は見世物ではない!」

一部の過激化したアニマルガールたちは、各々の武器を取り出し抵抗しようとした。しかし、「職員」達が彼女たちに青い銃を向けると、彼女たちは二の足を踏んだ。

「今すぐ武器をしまいなさい!さもなければ打つぞ!」

それは、「セルリウム弾」。撃たれたアニマルガールは体内からセルリアンに侵食され、強制的に動物へと戻されてしまう。

フレンズと職員の膠着状態が続く中、誰かによってついに職員めがけて石が投げられた。

無数の銃口が向けられた先にいたのは、なんと人間だった。

「お前ら調子乗ってんじゃねえぞコラァ!」

それを切り口に大勢の人間たちがフレンズを身を挺して守るように前に出て、投石を始めた。

彼らは、フレンズと共に働く労働者たち。友人であるフレンズたちが虐げられてきたのを、間近で見てきた人々だった。

「俺たちは何度もフレンズに助けられてきた!もうこいつらに辛い思いはさせたくねえんだよ!!」

「獣権」運動に参加していたのは、決してフレンズだけではなかった。それは、多くの人間も望んでいたことであったのだ。

この、「獣権運動」のシンボルとされたコハクは、各地でその純粋な気持ちをメロディに乗せて伝えていった。

彼女が疲れ果てて倒れこんだ日に、ついに「獣権」は認められ、人間とフレンズは平等となり、互いに助け合って生きていく道を選んだ。

パークの英雄として称えられたコハクは、PIPを押しのける人気を博し、衣装もまた、「元気払い」から仕入れるようになった。

コハク「こんな衣装じゃダメ!ただ綺麗なだけじゃない!私は英雄なの!もっと私が目立つような衣装を用意しなさい!」

店主「かしこまりました。」

その衣装は彼女の数十倍はあろう、超巨大なドレスであった。そのてっぺんで歌うコハクは、観客の視線がこちらに向いていることに満足していた。

しかし、観客はその巨大な衣装には圧倒されていたものの、やつれ果て、ミイラのようになった彼女は気味悪がっていた。

彼女の人気はなくなり、「獣権」が当然のものであると思われるようになると、彼女は世間からすっかり忘れ去られていった。

酒に溺れ、ドレスを買った時のようにフラフラと街をさまようコハク。しかし、その目にはかつての生気も、純粋さも宿してはいなかった。

やつれ果てた顔からギョロリと飛び出ているように見えるそのにごった目玉は、突然ある一点の方向を向いた。

そこにあったのは、「元気払い」の屋台だ。

店主「おや、お久しぶりですね。ずいぶん元気がありませんようで。」

コハク「あんたのせいよ!あんたが、クソみたいな衣装しか出さないから!私は今こうして落ちぶれたの!」

店主「左様でございますか。それはまことに失礼いたしました。」

コハク「あんたのところからもう二度と服など買ってやるものですか!とっととここから消えて!」

店主「あなたがそうお望みなら、私はもうあなたの前には二度と現れません。今までごひいきにしていただき、誠にありがとうございました。」

店主と屋台は半透明になり消えていく。しかし、

コハク「待って!」

彼女は叫んだ。今までの成功には、いつも「元気払い」の存在があった。それを失うのは彼女にとって大変惜しかったし、怖かったのだ。

コハク「これが最後の買い物よ。いい?私の願いを叶える服を出して!ありったけの元気を払うわ!だから私がもう一度注目されるような服を出して!」

店主「承知いたしました」

店主は、今まで一度も見せなかったほほえみを見せ、そう言った。

翌日の朝、その路地裏で、今まで買ってきたすべての衣装の山の中で息絶える、カラカラに痩せ細ったコハクチョウの死骸が発見されたよ。

かつての英雄の奇妙な死は、怪事件として何年も世間を騒がせることとなった。つまり、彼女の「注目されたい」という願いはちゃんと、果たされたってわけさ。

キリン「こ、こわい話だった…と、ところで、その店主の正体は、一体何だったんですか、せ、先生…」

オオカミ「さあね、でもある噂によると、それは、欲望を利用して元気、すなわち生命力を得ることで、何百年、何千年も、生きながらえてきた存在ともいわれているよ。さて、君は、物と命、どちらが大切かな?」

キリン「ひゃぁぁああああ!!!!」

オオカミ「冗談だよ、冗談。そんなに震えることないだろう。ところで、そのマフラー、いつもと違うけど、どこで手に入れたんだい?」

キリン「ろ、路地裏の屋台で…もらったって言うか…買ったっていうか…」

END

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