パンスペルミア創世記

寝る犬

パンスペルミア創世記

 はるか数十億年の未来に「地球」と呼ばれることになる星がある。

 その星は活発な地殻活動により地表に溶岩が渦巻いており、大気もほとんどなかった。

          ――地は形なく、

             むなしく、

              やみが淵のおもてにあり、

               神の霊が水のおもてをおおっていた。


 そこに、半径数万キロメートルと言う巨大な宇宙船が現れる。

 宇宙船のドアがぱかっと開き、現れたのは悪魔とも神とも思えるような、光の巨人だった。

          ――神は「光あれ」と言われた。

             すると光があった。


「ほら、やっちゃん。もうしょうがないからここでシーってしちゃいなさい」


「えー? ここで?」


「しょうがないでしょ! だから前の星でトイレ借りなさいって言ったのに」


 小さいほうの(身長数千キロメートルほどの)光の巨人が股の部分に手を当て、腰を突き出す。

 そこから水分と思しきものが、滝のように溶岩の塊である地球へと降り注いだ。


 大量の水は溶岩に触れると水蒸気となり、地球の重力に絡め取られるようにして大気を為す。

 それでも蒸発しきれなかった水分は地表を覆い、地球を海と陸とに分けた。

          ――はじめに神は天と地とを創造された。


「さぁ行くわよ」


「はーい」


 宇宙船が飛び去ると、そのタンデムミラー型D-3He核融合反応エンジンから発せられた放射性物質が地表に降り注ぐ。

 水分の中に含まれていた有機化合物は、大量の放射能を浴びて変異を繰り返し、そこに地球最初の生命が生まれた。

          ――神はまた言われた、

             水は生き物の群れで満ち、

              鳥は地の上、

               天のおおぞらを飛べ。


 やがて幾百万もの進化と淘汰を繰り返し、地球は生命に満ち溢れた星になる。

 人間が生まれ、文化が生まれ、そして宗教が生まれた。


「神が世界をおつくり給うた!」


 いつしか人間はそう語るようになる。

 その言葉にはいくらかの真実が含まれている。

 そう、これが本当の天地開闢の物語である。

          ――こうして天と地と、

             その万象とが完成した。

              これが天地創造の由来である。


――儀典『ウリナミエル書』より抜粋

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