第11話 宴の準備を~漬物は踊る~ Ⅲ
私(ソーセージ君)は
道具屋と別れ本日の作業報告を完了しまた作業場に向かう事にした。
そして階段を降りながら坊主頭を軽く撫でた。
階段の窓から見える空は、暗く黒い空からは雨が今にも降ってきそうだ。
空一点を見つめる。
今この状況、自分にとっては好都合だ。
自らの仕事を進める事もできるし、
今回の道具屋との作戦が上手くいけば、ここから脱出できるかもしれない。
しかし今一つ合点がいかない事があった。
道具屋の事だ。
まず一般常識についてまるでパズルのピースの様に欠如している部分がある。
物事を知らないというより上手くリンクしていない。
全ての常識を知らない訳ではないが一部欠けている状況に近いのかもしれない。
その場合小さな子供と同じぐらいの知識しかないように感じられたりもするが
かと思えば状況を冷静に計算し、私を助けてくれたり、他の人間では知りえない様な
情報を持っていたりする。そう例えば漬物についてだ。
それだけならまだ分かるが
総合的に考えてそんな人間が果たして道具屋を営む事ができるのか?
という単純な疑問が湧いてくる。
できないのでは・・・・?
――できないだろう・・・・・
ん?それだと別の方法で道具屋を営んでいるとか?
例えば彼は見てくれは悪くないので
もしかすると周りの女性が助けてくれているのかもしれない。
いわゆるヒモなのか・・・。
ありえなくはないな。謎は深まるばかりだ。
ヒモ道具屋か・・・略してヒモ屋だな。
他にも気になる点が存在する。
それはあまりにも今回の計画が順調に進んでいる事だ。
まるで誰かに操られているかの様に・・・
準備は順調に進んでいるが
曖昧な点が幾つか存在している。
それは道具屋と対話する中で気がついた事だが
言ってしまうと道具屋が何かを隠しているという事だ。
自分の身の上を喋らないのはまだ分かるが
この作戦が上手くいかなかった場合、彼も死ぬ事になる。
しかし多くは語らない。
逆に凄い事かもしれない。
私の場合であればトップシークレット級の秘密を知ってしまえば
誰かに語りたくなってしまうだろう。
漬物について生成方法もそうだが
道具屋本人についても謎が多いという事になる。
情報が足りていない。
違和感を大きくしないため、彼についてもっと知らねばならないだろう。
これは相手への一定の信頼とも言える。
パートナーとしてやっていくには必須条件と言えるだろう。
自分が生き残る確率を少しでも上げるためにも。
そして最悪の場合も想定しておかなければならない。
今回の作戦が失敗に終わった場合、私も処刑される事になるが
いつでもその状況から逃亡できる方法を確立しておかねばならない。
それが保険というやつだろう。
総合的に考え今日中には判断したいところではある。
気持ちを落ち着かせて、道具屋が待つ作業場に足早に歩きだす。
部屋に入る前に一つ大きく深呼吸をしてドアを開ける。
「おーい、作業報告完了したぞ、さっさと厨房に行こうぜ」
部屋内をゆっくり見渡したが、中には誰もいなかった。
もう厨房では昼食の準備が始まっている時間なので
既に向かったのかもしれない。
少し緊張が溶けて心拍数が正常に戻った様な気がした。
軽く咳払いをした後、ドアを開き部屋を後にする。
―――――
足早に移動して食堂に到着するとすぐに道具屋を発見した。
厨房を見つめながら、とても驚愕している様に見受けられる。
既に料理の仕込みが始まっていたので
手際の良さに感心しているのか???
厨房では大根を刻んでいるようだ。
道具屋は大根を真剣に見つめている。
こちらに気づいたようで軽く会釈する。
そして目線を大根からこちらに向けた。
「作業報告ありがとう。ちょっと聞いてもいいか?」
「ああ、いいぜ」
「大根って葉っぱの方を料理に使うのか?」
「そうだ。あれが美味いんだよ」
「白い部分の方は使わないのか」
「ああ、あれは綺麗に切って横に置いておくだけなのさ」
「横に置いておく?」
「そう、そして捨てる」
「そんな、四万十川料理学校出身者じゃないんだから・・・」
「ん?しまんとがわ?」
「いやあ、なんでもない」
「それじゃあ、そもそも丁寧に切る必要性がないのでは?何故細かく綺麗に切る必要があったのさ。」
「ああ、それはいわゆる儀式ってやつだ。」
「儀式!?儀式って??なんだ???」
「料理にも儀式がある。豊作祈願ってやつさ」
「大根の?」
「そう、大根のさ」
「葉っぱしか食べないのにな・・・」
道具屋は下をむいてしまった。何か考えているように見える。
しかし葉っぱ以外に何を食べるんだよ。全く良く分からない奴だな。
上手くやっていけるだろうか・・・少し不安になってくる。
そして無意識に坊主頭を軽く撫でた。
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