第12話 宴の準備を~漬物は踊る~ Ⅳ

「大根の捨てる部位を漬物に使おうと思う」


食堂のテーブル向かいに座っているソーセージ君に打ち明けると

周りを気にしながら半信半疑で尋ねてくる。

「大丈夫なのか?」

「あんなの捨てるものだろ。使ってせいぜい家畜のエサってところだ」


おいおい、大根農家にあやまれよ。

ちゃんと食べれるんだぞ。


「食べた事はあるのか?」

「いや無いけど・・・」

まあそうだろうな。


「そうか、本当はあの部位も食べれるんだよ」

「・・・・本当かよ」

「ああ、俺は何度も美味しく食べている。一度食べてみるかい?」

「ええっ!?大根持ってるのか?」

「さっき一部を厨房から頂戴したのさ。どうせ捨てるんだから問題ないだろう」

「まあ、そうかもしれないけど・・・」


そう言って

右手に握りしめている大根の欠片を見せると、

ソーセージ君は怪訝な顔で答える。


「俺はいいよ・・・色んな意味で」

「ああそうかい。では失礼して」


ソーセージ君が見つめる中

一口サイズに切られた大根を口の中に放り込む。

しゃりっと軽く心地よい良い食感。

少し固めながらもほんのりと甘い大根が

口の中一杯に広がった。


これは部位としては上部で間違いないだろう。

大根は上部に近いほど甘くなるのだ。


しかし美味いな。これで決まりだな。

こいつは間違いなく漬物に使えるだろう。


「これは美味いな」

「そうかい、漬物に使えそうなのか?」

「全く問題ないな」

ソーセージ君はぎこちない表情を浮かべる。


「それとまだ必要な物があるのだが?」

「なんだよ、他にも必要な物があるのかよ」

「できればキツめの酒が欲しいんだよ。とびきり酔えるのがいいな」

「キツめの酒か・・・

 この辺りでは無問題という酒があるな。

 そいつは飲めば象でさえ一撃でぶっ倒れるらしい。飲んだ事はないがな」


全然無問題じゃねー。


「そんな酒があるのか。

 よし、それは確実に手に入れよう」


そう言ってソーセージ君に

所長に依頼する材料リストを渡して書き込んでもらう。


「後欲しいのは、香辛料それとトマトだな」

「トマト?何に使うんだ?」

「見てからのお楽しみってやつさ。すぐに分かるさ」

「まあいいや。俺も少しぐらい書いてもいいだろ」

材料リストに

ソーセージと林檎等本人が食べたいであろう物が

書き込まれていく。


ソーセージっておい!懲りないなホントに。


「ははっ、こいつはいいや。今食べたい物を何でも書いてみるか」

笑いながら、悪ノリしてどんどん書き込み続ける。


「おいおい、あんまり無茶するなよ」


そう言いながら材料リストを再度見つめる。

「・・・・・・」


「おい・・・どうした?

やっぱり色々書きすぎたかな。ソーセージは消しておこうか?」


「いや、このままでいい」


材料リストを見て思わず閃いたのだ。

フフと思わず不気味に笑ってしまう。


「何笑っているんだよ」

「いやいや」

「頭おかしくなったのか?」

「大丈夫だ。今日の夜に開催といこうじゃないか」

「???」

「開催?何をやる気なんだ??」

ソーセージ君は不思議そうな顔で見つめてくる。


「試食会を行うのさ」

この世界に来て一番爽やかな笑顔で答えた。

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