第10話 宴の準備を~漬物は踊る~ Ⅱ
「漬物は簡単に採れないのか」
掃き掃除を一旦止めて聞いてみる。
「ああ・・・」
掃き掃除に疲れてソーセージ君は、棚にもたれている。
「もしかして季節的なものだとか?」
「いや、そうではないさ」
「ある地方でしか採れない事と保存方法が関係しているんだよ」
ソーセージ君は自分の左足を右足で軽く蹴る。
「保存方法だって?」
目を見開き大げさに驚く。
「つまりは、壺さ。あの壺でないと漬物は保存できないようになっているって事なのさ」
あの壺か。確かにたかだか壺にしては装飾があり丁寧に作られているように思えたな。
ただ何か保存効果があるようには一切思えなかったがな。
しいて言えば腹巻きに使っている布とか?
「・・・なるほど。それにしても壺が必ず必要なのは分かったが
壺と漬物の組み合わせだとしても高価すぎるんじゃないか?」
「んーそれはな」
ソーセージ君は一度俯き何かを考えている。
「漬物にはある特別な効果があると言われているんだよ。」
「特別な効果?」
ゆっくりと息を飲む。
「・・・不老不死」
ソーセージ君はなぜか睨んでくる。
「不老・・・不死・・だと」
「そう、不老不死だ。」
でた。。不老不死。
漬物はそこまで価値が高められているとは。
凄い食べ物ですね。もしこの時代に名前を付けれるのなら
間違いなく漬物の時代だな。
元の世界では、漬物自体毎日浅漬けを食べていたから
俺は不老不死確定だな。。。。
「不老不死なんて信じているのか?」
ソーセージ君をじっと見つめる。
「さあな、ただあれだけ長く食べ物を保存できるって事は
人間の老化に効果があると思われているらしいしな。
ただ残念な事に、俺も食べた事がないので詳しくは分からないんだよ。ハハッ
本当に効果があれば俺も一度は食べてみたいぜ。」
ソーセージ君はそう言うと口を斜めにした。
「直ぐに食べれるさ。これから作るんだからな。
嫌というほど作って食べる事になる。
食べてみると何か分かるかもしれないな。不老不死についてもな。」
「へへっ、そうだな。」
ソーセージ君はニヤリと笑った。
「 ・・・漬物について良く分かったよ。ありがとう。」
「おう、気にするな。それじゃあ俺は掃除完了の報告にでもちょっくら行ってくるわ。」
ソーセージ君は軽く片手を挙げ去っていく。
ソーセージ君がいなくなり情報を一度整理する事にする。
漬物について概要は分かった。
ただ明らかに漬物については情報の意図的な操作を感じる。
それは壺を使う事で漬物により一層の希少性を持たせている事も偶然では無いだろう。
また保存方法を限定する事で、そこに価値を高めようとする意図がある様に思われる。
壺の装飾もその一つとしてもいいだろう。
そして不老不死。これも価値を高めようとする動きなのだろう。
意図的に噂を流しているに違いない。
これらは誰がやっているのだろうか?
普通に考えると最もメリットがあるのは誰か・・・
それは、ずばり生産者になる。
この漬物を製造している者達が価値を高めるために動いているのだろう。
そしてもう一つ。
情報の非対称性。圧倒的に生産者が情報を握っている状況にも関わらず
中身について詳細不明。何処かで採れるぐらい
の情報でしかない。しかも製造方法も隠されている。
恐らく漬物の生産地には、この漬物を特別な物として扱うため
全体をデザインした狡猾な人間達が潜んでいるのだろう。
これは中々興味深いな。
どのようにしてこの状況を作りだしたか調べてみたいぐらいだ。
あまり近づくと殺されるかもしれないが。
しかし同時に感じた事がある。
これは転生前の世界でも同じではないのか?という事だった。
たまたまか意図的にかは分からないが
価値を認められている物は、あくまでもコミュニティでまず判断し認められているという事だ。
キャビアはこの世界ではただの魚以下かもしれない。
もっと言うと、年代物のワインも漬物と同じなのかもしれない。
そこに集まるコミニュティが価値を認めれば
全体へと価値が認められそして波及していく。
ワインはご丁寧に保存する温度や年代をラベル付けして管理されている。
そして熟成させて価値を高められていく。
実はこの世界の漬物とやってる事はそれほど変わらないかもしれないし
それだけ危うい世界なのかもしれない。
もしここから上手く脱出できれば
是非生産地に行きたいものだ。
命が狙われる可能性は高いけれど、
この世界についてもっと知る事ができるだろうし、知りたいんだ。
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