(一)②

 * * *


 きぃんと、甲高い金属音を立てて紫電が奔った。

 一定の間隔で繰り返し響くその音は、或いは高く、或いは鈍く、低く、ぱっと輝き散る火花を上げて縦横無尽に駆けては、融ける。


「――おい冷伯れいはく!! お前も黙って見てないで動け」

「――あぁ? 芝蘭しらん! お前が先に突っ走ったんだろうが!」


 やや離れて、また怒号や剣戟の音があちこちで上がる。

 襲われているのは、一台の荷馬車だった。


「さっさとやれ!! 逆らう奴は皆殺しにしろ!!」


 盗賊集団の中でも頭に次ぐ地位にあった男は、馬車の轍から、舞い上がる砂塵から、相当な財宝を運んでいるに違いないと、何日も前から、その車を尾行つけていた。そして、車が自分たちの縄張りに入ったところを狙い撃ちにしたのだった。


「――そうはいくかよ」


 声と共に降ってきた刃を、男は辛うじて受け止めた。が、余りの重さに平衡バランスを崩し、深く身を沈め、片膝をつくような格好になった。

 あまりに激烈げきれつな刃に面食らいながらも男は、己に刃を振り下ろした人物を見上げた。

 月華つきに照れされたその面は、やや女性的ですらある白皙はくせきの美貌だが、口の端だけをつり上げた鋭い笑みは間違いなく青年のそれだ。彼が片手を軽く振るうと、男は軽々宙を舞い、近くの木の幹に激突して落ちた。



 冷伯は、あっという間に気を失ってしまった敵を見ると、肩に剣を担いで、不満げに鼻を鳴らした。


「おいおい、手応えねえな。もう少しマシになって出直しやがれ!」


 言うと、今度は背後から斬り込んできた男の攻撃をかわす。


「背後から狙うたあ良い度胸じゃねえか!!」


 言い放つと、剣を持ち替え、一閃。

 弾かれた敵の剣が旋回して地面に突き刺さる。

 そのまま身を翻して冷伯は相手の腹に蹴りを入れた。昏倒した敵を見下ろす冷伯の目は、鋭く冷ややかだ。


「雑魚ばっかで手応えねえな。飽きた。芝蘭、さっさと終わらせて酒でも飲みに行くぞ」

「はは、それはいいな」


 背後を守るように立った冷伯に、芝蘭は頷き、敵に視線を戻した。


「五人ずつ、どっちが先か、勝負だ」

「負けた方がおごりな」

「上等!!」


 二人は動いた。

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