武龍双侠第一
(一)①※残酷描写注意 苦手な方は②から※
油を塗った銅柱を炭火の上にかけて罪人を歩かせ、足を滑らせて火中に落ちるのを狙って焼き殺す
凌遅刑とは、一言でいえば「肉削ぎの刑」である。生きたまま、刀で肉を削ぎ、
そこに、この恐ろしく残酷な刑の眼目がある。
まず胸、次いで頭皮を引き下ろすように剥ぎ、目が隠れたところで止める。それから、太腿、腕、肘、ふくらはぎ、膝と順に削いで行く。裂かれた所には止血の薬が塗られる。失血ですぐに死ぬことは許されない。少しでも痛苦が長びくようにとの意図であった。こうして存分に苦しめ、甚振って、最後に漸く首を刎ねるのである。
刑場には今、数十人の女達が引き立てられていた。一挙にこれだけの処刑が執行される、その上、女ばかりというのも、これまで例の無い事である。これから大々的に行われるのは凌遅刑。
場は、奇妙に静まりかえっていた。手に手に刃をちらつかせ、舌舐めずりせんばかりの下卑た笑いを浮かべるのは、処刑執行人達である。一方、それを取り巻く人々の様子は、実に様々であった。怒りの表情を浮かべる者、眉を顰めて成り行きを見守る者、絶好の娯楽とばかりに酒を片手に悠然と構える者、顔を蒼くしながらも、怖いもの見たさか、チラチラと様子を窺う者――。
場は、雪がちらついていながら、異様な熱気が漂う。この雰囲気を、一言で表現すならば、狂、であろう。――否、今、この場限りのことではない。後に暗黒時代とも呼ばれる珱代、中でも
官吏が罪状を読み上げる声だけが響く。罪科は、皇后に対する大逆――。大逆は、最も重い罪である。謀っただけで罰せられ、その上、本人だけで無く、
「――わたくしに触れるでない、下郎!」
藺妃は刑場の奧の奧に設置された貴人の席へと向けて、声を大にして訴えた。
「皇上、わたくしは大逆など謀っておりません!! どうか――」
それに呼応するように、女達は口々に無実を訴えた。彼女達は、事が、自分たちを屠ろうとする皇后、
彼女達は、さながら、複雑に張り巡らされた蜘蛛の糸に絡め取られた蝶であった。
「――刑は決した」
帳の奧から、無慈悲な声が放たれた。
「皇上……」
「――やれ」
「皇上!! どうかご再考を!! どうかっ――!」
身分の低い者達から、刑は執行されていく。悲鳴が浪のように幾重にも響きわたる。大抵の受刑者は、一日の内に首を切り落とされたが、首謀者である藺妃の刑は、実に三日を要した。
その細首が落とされる直前、藺妃は狂気の高笑いを上げて、こう叫んだ。
「……よくも、……っ。この恨み、決して許さぬ。
言葉はそこで消えた。処刑人が、言い終える前に藺妃の首を切ったのだ。首は高くはね上がり、転々として、刑場に落ちた。
落とされた首は、最終的には、先に殺されていた一族のものを合わせて、百を超えた。首はそのまま晒され、罪人から削がれた肉片は、薬として高額で売り買いされた。そこにはなんと、万の人々が群がった、という。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます