飄冷光自序
歳の離れた兄・
時には、境を越え、海を越え、砂漠を越え、遠い異国を旅したこともあったとか。
姉の
殊に兄とよく似て、一所にじっとしていられない質だった姉は、「わたくしも兄様と一緒に行く!」と言っては兄に「お前には未だ早い」と
当時、
主に先立たれた飄公というのは、主の墓をお守りするのが習わしでありましたが、混乱の中、先皇の亡骸は路傍にうち捨てられ、
それが一層、父の焦燥と怒りとを掻き立てていたのでございましょう。
故に、章皇の忘れ形見の芝蘭様を守り、育て、父皇の仇を討つ。それが、父の悲願でありました。芝蘭様も、兄も、それは重々承知しておりましたし、また芝蘭様ご自身の望みでもありました。
父は、二人がろくに供も付けずに各地をふらついているのにもいい顔をしておりませんでした。
出立を控えるよう、進言することもしばしばでした。
そう言う訳ですから、まだ幼かった姉や私が旅など許されよう筈がありませんでした。
芝蘭様は、「必要なことです」と笑いながら、結局またどこかへ行かれるのでしたが。
当たり前の様に、兄だけを供として。
当時、まだ幼かった私に、全てをうかがい知る事は叶いませんでしたが、芝蘭様と兄は、その為の準備をずっとしていたのでしょう。
ですから、父も、口では軽はずみな行動に苦言を
兵を挙げ、叔父の脩軌を玉座から
主を喪った兄はその後、行方をくらまし、幽蘭様と共に戦場を駆け抜けた姉の婀禮もまた、
そこで私は、吾が
ここで私が目指したのは、彼らのありのままの姿をただ描き出す事です。故に論纂を備えておりません。
これを以て、彼らを忠とするか、或いは不忠とするか、それはこの書をお読みになられた諸賢、それぞれのご判断に委ねようと思うのです――
明璋
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