楊明臣序

 故清瑩先生せいえいせんせいこと飄君ひょうくん冷光れいこうは、吾が旧来の友人である。

 

 其のわかき頃より、学問に通暁つうぎょうしていたが、病の為に仕える事は生涯無かった。

 

 人と争うことをよろこばず、独り瑩山えいざん幽棲ゆうせいした。琴を弾じ、意を得る毎に詩を吟じ、文をつくること万巻に至る。

 

 飄君は平生、温良恭倹おんりょうきょうけんな気質で、口数少ない人物であった。


 しかし、筆陣ひつじんふるえば、いかなる能文の士にも劣りはしなかった。それは、彼ののこした数々の著作を見れば分かる通りである。

 

 

 彼の兄姉に、冷伯れいはく婀禮あれいがいる。彼らは仕えた主君の死後、何れも行方をくらまし、その行方は弟である飄君ですら知らなかった。


 晩年、飄君は彼らが世間の人々から不忠のそしりを受けているのをみ、この書をあらわそうと決意した。

 


 わたしが、病床の飄君からこの稿を受け取るや、も待たずして彼は鬼籍の人となり、本書は彼の絶筆となった。既に彼が没して三年となる。その間、世間では大きく情勢が揺れ動き、飄君の遺稿を上梓する機会を逃していた。が、この度、是非に、という人があって、遂にこの書を世に出すことができた。


 今、序を為り、以てこの書の始めにす。なお、飄君の稿には、この書の題を記さなかった。

 

 梓するに際し、「あおき血潮の流るる」と称される飄家二氏の傳、という事で『碧血双傳』と題したのは余の独断であり、飄君の意にあらざるを、ここに記しておく。         

            有寧ゆうねい 楊明臣よう・めいしんせん

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る